伏見ぶらぶら28
2004・8・20撮影
2004・8・21作成
(1)西村公朝師の不動明王
「仏像は語る」(新潮社・西村公朝著)を読みました。その中に「気合いで彫った不動さん」という一文がありました。この不動さんが京都市伏見区醍醐南里町の善導寺にあるというのです。善導寺は私が「伏見のお地蔵さん」で紹介している「腹帯地蔵」さんのあるお寺です。あれ?そんな不動さんあったっけ?と思いました。公朝師の本からの抜粋です。
(2)生木に彫られています
「実際に枝葉のついた立木として生えているものに彫刻したものはまず見あたりません」
「昭和30年頃、私はその(腹帯地蔵)の修理のために通っていました。この寺の境内には直径2mほどの大きな榧(かや)の木があり、昔から天狗が出る話が伝わっていました。それでこの榧の木には注連縄が張られ、御神木として祀られていたのです」「ここの住職と話をしていた時、その榧の木にお不動さんを彫りたい」「立木不動ができれば信者さんも増えるし、その榧の木も仏として拝まれれば喜んでくれる」「これは大変な話になりました」「しかし正直いって、彫刻家としての私もどんなことになるのかやってみたい気もあります」「ついにやろうということになったのです」
「まず、私がとりかかったのは、生きている立木の場合、枯らさないためにはどの辺まで彫り込んでいいかを調べることでした」「京都府の庭園技師の人の所へ行っていろいろ教えてもらいました」「表皮から約15cmまでは彫り込んでも大丈夫」
(3)1日で彫られました
「前日、お寺に泊まり、翌朝から仕事に」「まず注連縄を切らなければ」「そこで住職に御霊抜きをしてくれと頼みました」「そして住職が気合いを入れて叩いた瞬間、私は「南無不動明王!」と掛け声をかけて自分に気合いを入れたのです。住職は飛び上がらんばかりに驚いて、真っ青になってしまいました」
「あいにく小雨が降ってきたのですが、途中でやめるわけにはいきません。足場に乗ってカンカンと雨の中を掘り続けました」「榧の樹脂がはね返ってきます」「木肌はものすごくきれいな黄色」「雨と樹枝のしぶきをかぶりながら、私は不動明王の真言を唱えて一心不乱に彫り、やっと夕方に彫り上げました」
(4)百年後にどうなるのか?
「木皮をはいだ部分がだんだん茶色に」「ちょうど額縁にあたるところが次第に肉盛りして盛り上がってきました」「ひょっとしたら今から百年ぐらいたつと、その不動さんはすっかり木皮に覆われてしまうのでは」榧の木が枯れて倒れ」「何かの機会にそのふくれた部分がポコンととれて中から不動さんが」「何百年か後の人たちはおそらく吃驚(びっくり)仰天するのではないでしょうか」
これを読んでぜひ現在の姿を見たいと思いました。