児童詩教育どのようにすすめるか
(書く前の指導中心に)
小宮山 繁(京都綴方の会)
目次
はじめに
第1章 何を書くか(選題)のヒントを与える取組
  教師の話を大切にする
  @教師の体験談
  
A教師が出会った子どもや詩の話
  
B読み聞かせ
  
C題材一覧表を使う
第2章 詩の題材を見つける授業
(書く前の授業)
  @自由選題での授業
  A課題を与えて書く授業
      その1,ヒントになる3つのこと制限をして課題する方法
      その2,参考作品を読んで課題する方法
      その3,「場面の切り取り」をする方法
第3章 詩的発想をひきだす1
   @何々をしている○○さん
    A○○さんの(くち)ぐせ・しょっちゅうする話
    B「会話」から始める

    Cいつもとちがう○○さん
    Dいつも思うあのこと

第4章 詩的発想をひきだす2
    @媒介するものに思いをたくす
    A最初の一行を与える
      ・会話から
      ・言いたいことから
      ・とらえた音から
    B韻をふんで書く(頭韻・脚韻)
    C短詩を書く
    D発想を他の詩からもらう
第5章 詩の表現方法の指導(どのように書くのか)
   1 話すように書く
     2 思い出したことを順々に書く

     3 詩的表現に気づいて書く
第6章 詩の鑑賞と「ことばあそび」を楽しむ
おわりに
はじめに
 
 作文でも詩でも『何を書くか』が決まらないことには書けません。
 選題の方法として、子どもに自由に題を選ばせる方法と教師がヒントを与える方法が考えられます。本来表現は自己表現をめざすものですから、子どもが「書きたいこと」を決めて書けばよいのです。
 しかし「書くことがない」と言う子もいます。『自由に書けと言われるほど不自由さを感じる』子がいるのも事実です。大人でも『題』や『テーマ』を決めてもらう方が書きやすいこともあります。ですから指導のあり方としては、子どもが自分で自由に選題できるように導くことが肝要だといえます。
 そのためには、子どもたちが「このことをぜひ書いて知らせたい」という気持ちにならなければなりません(表現意欲喚起)。高学年にもなれば、「このことは自分にとって『書くねうち』がある(主題意識)」と思って書けるようになってほしいものです。
 もう一つ大切なことは基本的には「書くことそのことが楽しい・快感だ」という体験に導くことが大切であるということです。これは記述や推敲の表現課程が楽しいものであるということを経験させる工夫が必要です。
 「どうしてこういう(おもしろい・楽しい・生き生きとした)詩を子どもがかけるのですか?」とか「なぜこんな深刻な内容の詩を子どもが書けるのですか」聞かれたことがありました。
 その答えに「私の毎日のすべての仕事ぶりを見てもらうしかない」とおっしゃっている方がおられました。私は毎時間参観者がいるような授業をし続けたいとは思いませんからそんな偉そうなことはよう言いません。
 しかしその方が言いたいことは分かります。教師と子どもとのよい関係がなければ子どもは『本当のこと』は書かないのです。作文・児童詩教育ではその教師がどのような人間観や教育観及び社会観を持っているかが大きなウエートを占めます。だからこの教育はおもしろいしやりがいがあるのです。教師としての力量を高めるのに役立つのです。
 もし自分のクラスでは生まれるべくもないような作品があるとしたら、その指導者はそれなりの教師としての力量を養ってきたと見るべきでしょう。子どもとの関係が自分とは違うし、教材解釈の深さや広さが自分とは違うと思うべきです。
 私が出会ってきた作文や児童詩の優れた実践家はいずれも魅力溢れる人間性の持ち主でした。そしてその人それぞれの指導方法を工夫して持っておられました。何より普段の全教科の授業そのものが魅力的であろうことが想像できました。

第1章 何を書くか(選題)のヒントに役立つ取組    
教師がする話を大切にする
 書くことに関係ないようなことですが、実は大事にしてきたことに教師がする話があります。
 こんな種類の話をしてききました。
@笑える話(実は人間のおろかしい話)…自分を相対化して笑えることは大事
A失敗した話・はずかしかった話
Bちょっと秘密の話・絶対秘密の話
Cくやしくて涙が出た話
D人にはなかなか言えないけど心に残っている話
E腹が立ってちょっと聞いて!と言いたくなった話
 などが考えられます。
 聞いている子どもたちは、「ああ、そういうことを見つければよいのか」とか「この先生は、こんなことを大切だと思っているのだな」とか「そういうことなら私にもある」とか思い、自分のあんなことこんなことをこの先生なら受けとめてくれるかもしれないとか思ってくれるのではないかと思います。
@教師の体験談
・「ノーベル賞学者益川先生」
・「黄色いきゅうり」
・「歯が折れた!」
・「かばのしっぽはどんな形?」
・「動物園で聞いた話(ライオンの食事・足の指の話)」
・「つらくてだれにもできなかった話(おじさんの死)」
・「今でも覚えている涙の出る話」(新婚旅行から帰ってきた日)
・「はずかしくて逃げ出したくなった話」(遠足でおもらし)(学校が火事!)」
・「びっくりした友だちの話(T君のこと)」
・「友だちがうらやましくなった話(自転車)」
・「どろぼうに入られた」
・「息子の目の手術」
・「ちょっとかわった友だちの話」
・「むかついた先生の話(高校の時の英語の先生)」            *どんな話かは後日。
 
A教師が出会った子どもや詩の話
  
 話だけをすることと作文や詩を紹介する場合があります。

・「なぞなぞ…赤ちゃんにくっついいるぼうは?」
・「魚さえいいひんかったらなあ」

「子ども詩・作文(1年〜6年)」参照
・今担任している子どもとの生活の中で見つけたおもしろい話や紹介したい話
B読み聞かせ 
  絵本なら1日で終わりますが、何日かかけて読み聞かせたい物語にも取り組みます。  *読み聞かせにいいなと思う絵本の紹介はまた後日
C題材一覧表を使う
   *具体例はまた別ページで  
第2章 詩の題を見つける授業(書く前の授業)
@自由選題での授業

 
「心がふるえたこと」(書きたいこと)を見つけて(取材)詩を書くことを1週間前に通告し、国語(作文)の時間に書くことを予告します。決まった題を順次背面黒板にはっていくなどして友だちの題を紹介していきます。
 詩の題を選ばせるときにどういう単元名にするかは色々考えられます。
・「心に残っていること」
・「心が動いたこと」
・「心がふるえたこと」
・「書きたいこと」
 それぞれによいところがあります。私は詩の時は「心がふるえたこと」という言い方が好きです。
 
A課題を与えて書く授業 

 ます大切なことは、その1時間で
@子どもの心をゆさぶって書きたくなるような気持ちにさせること
Aなるほどそういうことを見つければよいのかというヒントが得られること
が大切になります。

 
子どもの心をゆさぶりつつヒントになる方法として3つのことが有効ではないかと考えています。

その1,ヒントになる3つのこと制限をして課題する方法

@対象(人間・自然・社会)
A時間(昨日・今日・明日・現在・過去・未来 生まれてから今まで 今日朝学校に来るまで 夏休み中になど)
B心の動き(うれしい、悲しい、つらい、はずかしいなどなど)
 この3つを制限して課題することしかないと私は思っています。この3つを組み合わせると、イメージはかなり狭まるのですが、逆に思い出しやすくなるのも事実です。「きのうのお母さんのことでうれしかったこと」「今日友だちがした(言った)ことであれはくやしいと思ったこと」「最近のニュースの中で『それはあかん』と腹が立ったこと」(これは指導案の単元名になるのです)などと組み合わせてみてはどうでしょうか。


 
今の自分のクラスの子どもたちにどういう投げかけが適切かを考えてやってみることが大切です。
 どなたかが指導された作品をみて「こんなことをなぜ子どもたちが書けるのだろう」とか「自分にも書いてほしいな」とかいうときに、先の三つの制限のことを思い出して、授業にできないだろうかと一度考えて試してみてください。

 
その2,参考作品を読んで課題する方法

 
この方法のよいところは、具体的であるということです。書き方まで示してくれるわけですから、ああ、そういうことをそういうふうに書けばよいのかと見通しがもてることです。しかしこの方法の弱点は同じような作品ができてしまうことです。
 その1で言ったような3つの制限をして参考作品を使うと、ますます参考作品に引きづられて、同じようなものになる可能性が大です。それでもいいというなら別です。
 私は先の3つの制限のうちの1つだけとか2つでやる方がうまくいくと思います。
 「『きのうのお母さん』のことを思い出してみよう。と言って、色々なお母さんを描写した作品をいくつか読むのです。どのお母さんが自分の書きたいお母さんの参考になるかを選ばせるのです。
 また、「心がふるえたこと書こう」という時、心が様々にふるえている数作品を読んでから書くということを私はよくしました。
 どんな参考作品を用意するかが勝負です。子どもの実態(心の解放具合、教師との親密度とか信頼度・今までの作文指導の蓄積)に左右されますから十分考えてください。私はやはり大笑いできる話や、失敗した笑える話から始めることをお勧めします。先ほど教師がする話に書いた順番は、この場合も参考になると思います。


その3,「場面の切り取り」をする方法
 
 
詩でも作文でも「ある日ある時のある場面」を切り取って書くことが基本になります。
 作文では心がふるえた(心に残った)場面をようく思い出してそのまま描写することが大切です。時間の経過にそってあったことをあったままに、思ったことを思ったままに書きます。(ありのままに書く)
 児童詩では少し違うと思います。低学年や指導の最初ではあったとおり思った通りの場面を短く直裁に書けばいいでしょう。指導が進めば心ふるえた場面の事実から意識的に書かなければならないことを取捨選択したりデフォルメしたりする必要があります。
 いずれにしてもそのことが自然にできるように指導できればよいわけです。謂わば、自然に「場面の切り取り」をしてしまう課題の方法があれば便利なわけです。
 
第3章  詩的発想をひきだす1
  
 例えばこんな方法が考えられます。

@何々をしている○○さん

 ・お化粧をしているお母さん
 ・朝礼台で話をする校長先生
 ・とびばこをしている○○さん などなど   *この方法は岡本博文氏から教えていただきました。
A○○さんの(くち)ぐせ・しょっちゅうする話
B「会話」から始める

 ・聞いていて心が動いた○○さんのあの言葉から書き始める
 これは「ねうち」に関わることです。その人にとって意味ある会話を想起できるかが勝負です。この時にも「だれの」「どんな」話が「どのように」自分の心を動かしたかに自覚的な場合にしかこの場面を切り取ることが出来ません。

Cいつもとちがう○○さん
Dいつも思うあのこと

第4章 詩的発想をひきだす2 

 子どもが人や事物に思いをよせたり・子どもの思いをひきだす方法としては、こんな方法が考えられます。

@媒介するものに思いをたくす
・「お〜い雲」…屋上に上って、あるいは窓の外に向かって自分のその人へのこういう思いを届けたい
・「キンモクセイ」…この香りをあの人に 情景描写の確かさと思いの深さが勝負

A最初の一行を与える

 最初の一行が決まると、表現がころころと転がっていくものです。 不思議ですが…。
 「せんせい あのね」もこの一種です。
1、会話から
2、言いたいことから
3,とらえた音から
なんやねん!
こら! 
ありがとう ○○くん 
○○くん かんにんな ほんまはぼく… 
などなどから始める

B韻をふんで書く(頭韻・脚韻)

こみやませんせい  ○○ ○○やなあ 小宮山先生
こみやませんせい ▼▼ そうおもわへんか 小宮山先生
… …

C短詩を書く

@まど・みちおさんの詩の題あて(隠喩のおもしろさ) 
A創作
B鑑賞   …そこからことば遊びへ「なぞなぞ」

D発想を他の詩からもらう
 
 大阪弁の詩(畑中圭一・島田陽子さんの詩
 「うちかなわんねん」「うちのお母ちゃん」など
 
第5章 詩の表現方法の指導(どのように書くのか)

1 話すように書く
 
 
普段使っている方言で書く。
・「先生」「お母さん」に知らせるように書く
・書いてる対象に話しかけるように書く
 *自然なリズムになる
 *脚韻を踏むことになる
 「な」「なあ」「ぞ」「で」

2 思い出したことを順々に書く

 「した、した」「ました、ました」と書く。
 常体か敬体かは本人のリズムできめる。
   *作文と同じ書き方

   
3 詩的表現に気づいて書く

・「比喩的表現」のおもしろさを使う
▼直喩「ような みたいな」だけではないおもしろさ
   五味太郎さんの絵本「言語図鑑」
▼隠喩 「夜の帷が静かに幕を下ろす」 
▼擬音語・擬声語・擬態語(本当の音?聞こえないけど)
▼擬人法 人になぞらえる
・倒置法 なんだ、このリンゴは!(強調))
・「名詞止め」の直截さに気づく(省略は詩の命)
・「リフレイン」(繰り返し)…強調
・「韻」 頭韻・脚韻
・「行わけ」…余韻の妙
子どもには「息を継ぐところで次の行へ」
・書きはじめの一行
  ○言いたいことから
○「   」から
○とらえた音から
 *リズム・場面のとらえ
・書きおわりの一行の大切さ
  余韻・詩的世界が完結する一行に
・「連」…構成した意図的な表現ができる
  作文の「段落」と同じ時間経過にともなうもの
  文章中の「章立て」と同じ 意図的効果的表現
  「序破急」「起承転結」など
・リズム…これはなかなか教えにくい 自然に使う
  七五調、五七調 その他 四五調
第6章 詩の鑑賞と「ことばあそび」を楽しむ

@詩の鑑賞をする 「何」を「どのように」書いているか
  大人の詩・子どもの詩を読む
  「比喩」「名詞止め」「行わけ」「連」などのことばは詩の鑑賞を通じて教えると効果的である。
Aことば遊びを楽しむ
 「ことば遊び」(小宮山繁・小学館)参照
おわりに
 
 
これは2010年日本作文の会滋賀大会高学年の詩の指導分科会に発表したレポートに加筆訂正したものです。子どもたちが自分の生活に根ざした児童詩を書き合い読み合う教育が日本中の学校で取り組まれることを願っています。(2011・2・20〔日〕) 
 
 
 
 
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