がんばれ!唐招提寺
唐招提寺の蓮の花
(奈良市五条町・律宗総本山・рO742−33−7900)

 私は唐招提寺のファンです。というかお隣の薬師寺が大繁盛しているのに比べて唐招提寺があまりに地味なことにちょっと応援したくなるのです。
 鑑真和上のお寺を初めて訪れたのは高校生の時でした。もう40年前になります。エンタシスの柱の南大門や金堂は、天平文化が遠くシルクロードの出発点ローマやギリシャへ通じていることを実感させてくれました。そして、境内にある戒壇を見た時、ここは外国なのではないかと思ったものでした。東大寺に戒壇院があります。ここは戒壇が建物の中にあり、その四天王像に目を奪われて戒壇そのもの(土造)は印象に残りにくいと言えましょう。それに比べてこの戒壇は見事です。
 鑑真和上は唐の高僧でしたが、授戒のために日本へ来られました。754年(天平勝宝6)東大寺に到着されるまで12年間、前後5回に及ぶ難航海に失敗したにもかかわらず、初志を曲げずに日本へ来られました。その時和上は両眼とも失明されておられました。
 ですから戒壇はこのお寺本来の目的を一番よく表している建造物ではないかと思います。
 日本の仏教は「戒律」を重視しません。その最たるものが妻帯肉食ではないでしょうか。明治の廃仏毀釈で僧侶の妻帯が認められ、戦後はほとんどの僧が肉食するようになり、お釈迦様も吃驚仰天の肉食妻帯僧ばかりになりました。もちろん世間の常識から考えたら僧侶にも人権があるのですから非難されるべき筋合いのものではありません。
 
 だいぶ前に、奈良国立博物館へ正倉院展を見に行ったら、唐招提寺金堂の仏様たちがおられるではありませんか。?と思ったら唐招提寺金堂は平成の大修理に入ったと書いてありました。奈良市教育委員会が中心になって調査し修理されるのだそうです。調査は1998年から始まり、2000年から工事が開始され完成は2009年だそうです。(詳しくは唐招提寺のHP)
 解体修理工事が始まってからこれで3回唐招提寺へ来ているのですが、工事関係者の方が中におられるのを見たことがありません。一体どのように工事が進められているのかなと思います。きっと日曜日はお休みなのかなとか、研究調査のために時間がかかるのかなとか、お金がないのかなとか思います。余計な心配なのですが、お隣の薬師寺が次々伽藍を建てられてピカピカになっていくのと比べてしまうものですから、唐招提寺ファンの私は「遅いのではないか…」と思うのです。

唐招提寺と蓮の花

 この唐招提寺オリジナルの蓮がいくつかあるようです。京都の法金剛院は唐招提寺と同じ律宗です。境内に唐招提寺の名を冠した蓮がありました。法金剛院で蓮を大切にされているのも本山と末寺の関係だからかなと思い唐招提寺を再訪したというわけです。
 受付で「蓮の花はどうですか?」とうかがいましたら、咲いている場所を「地図」に書き込みながら教えて下さいました。「戒壇前の蓮池は時期がもう少し遅い。本坊と売店前がよい」とのことでした。

(1)戒壇前蓮池

 正直な感想を言わせていただきますと、手入れ不足です。この池は花菖蒲なども咲くようですがごちゃごちゃになっていて、唯一見つけたのが右のつぼみでした。戒壇の前にある蓮池…もう少し手を加えて下さればなあと残念でありました。

(2)本坊の蓮

 本坊の門に貼り紙があり、四十鉢余の蓮の名前がそれぞれ紹介してありました。唐招提寺の名前を冠した蓮は残念ながら蕾も花もありませんでした。でもいくつかの鉢には蓮の花が美しくさいておりました。
 それにしても…と私は思うのです。その二十分前に喜光寺で蓮の花を見てきました。お寺の歴史とか格式とか国宝重文の数から言って喜光寺と比べるのは唐招提寺には不本意かも知れませんが、蓮の花を期待して訪れたものには不満足な蓮の花です。もっと正直に申しますと喜光寺(鉢の数200)であれだけの参拝者を集められるのですから、唐招提寺がその気になって蓮の花の数を増やされたら、蓮の花だけであの駐車場はいっぱいになると私は思います。
 いや今のままの閑散としている唐招提寺の方がイメージが壊されないので良いかもしれませんが、宝の持ち腐れということばが浮かんできました。ちなみに喜光寺は薬師寺と同じ北相宗で、なかなか上手に自分のお寺のセールスポイントを押さえておられると感心しました。

 本坊の油土塀は素敵です。奈良の古寺はこうでなければみたいな思いを満足させてくれます。

 ついでに勝手なことを言いますと、本坊の隣に醍醐井戸というのがあります。この井戸立派な井戸です。八角形です。しかしながら汚い水で興ざめです。「醍醐」なのですからせめてもう少し美しくならないでしょうか。その前に立派な礎石があります。きっと境内から出てきたものなのでしょう。この礎石の辺りはじめじめしていて、自然に水が湧いている感じです。そういうところだから井戸を掘られたのでしょうけど。礎石も東大寺の講堂後のようにそのまま置いてある方が値打ちがあるように思います。

(3)経蔵(校倉)附近の蓮

 受付の方が「売店付近」の蓮とおっしゃっていた蓮の花です。ここにも三十鉢ぐらいの蓮の花がありました。後ろに経蔵があるがこれは正倉院校倉よりさらに古いものです。
 私が、唐招提寺ファンなのは、
@このお寺の仏像が魅力的であること 
A建物に法隆寺と同じ古いにおいを感じるから
B鑑真和上をえらい方だと思うから という辺りでしょうか。
 @についてです。唐招提寺の仏像は奈良の他寺のものに比べますと地味です。薬師寺の薬師三尊や聖観音像、興福寺の阿修羅、東大寺の日光月光や四天王と比べますと「あの仏さんのおられる唐招提寺」という知名度に欠けるのが残念です。
 Aについてです。建物は天平時代の金堂・講堂などと鎌倉時代の東室や礼堂などですがいずれも美しいです。塔がないのが惜しいなと思います。隣の薬師寺は「凍れる音楽」とか何とか言われる東塔がやはり魅力です。
 Bについては前にも書きましたが、芭蕉の「若葉して 御目の雫(しずく) 拭(ぬぐは)ばや」という俳句に触発されて偉い方だといういう思いが増幅されているのも確かだと思います。願わくば、いつ行っても鑑真和上像と対面できたらうれしいなと思います。芭蕉の時代はどうだったのでしょうか。芭蕉だから対面させてもらったのでしょうか。東山魁夷奉納障壁画も見たいですね。

 「唐招提寺にもっと参拝者を委員会」とか「薬師寺にまけない唐招提寺の会」とかそういう組織ができたらいいのになと思います。私いくつかアイデアがあるのですが。まあたぶん採用されないでしょうけど。
 
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