大分の石仏シリーズ1

重要文化財
大分熊野磨崖仏
(大分県豊後高田市大字平野字登尺)

 鬼が一晩で99段まで作ったという話の残る熊野磨崖仏の石段は、なかなか登りごたえがありました。
 ああ、やっと着いた…うわあーすごいやんかこの磨崖仏!!!と石段から磨崖仏に意識が移るところにうまいことベンチが置いてあって、そこに座ってしばらく、右の大日如来と左の不動明王を見上げました。

(1)熊野磨崖仏

(2)大日如来

 端正な顔形…なるほどなあこういうのが端正というのだなと思います。
 脚部は埋もれているわけではなく最初から半立像だということです。大日如来というと如来なのに頭に宝冠を被り、印を結んでいるとおもうのですが、頭の上の種子(梵字)が決め手になって大日如来と判断されているようです。その頭の上の種子の曼陀羅は胎蔵界と金剛界が逆になっているそうです。

(3)不動明王

この不動さん「ぶた顔」してる…と思いました。怖い!威厳がある!と言うのとは無縁の何とも愛嬌のある顔したはるのです。雨が降った後行ったのですが、頭の部分が石混じりの粘土で出来ていることが分かります。この熊野の不動さんも二童子(セイタカ・コンガラ)を従えていたようですが剥離崩壊しています。

(4)「鬼の築いた石段」の話

「熊野磨崖仏管理委員会」のパンフに載っていた話です。
 紀州熊野から田染にお降りになった権現さまは霊験あらたかでこの辺りの人々は家も栄え健康でよく肥えていたそうです。どこからか1匹の鬼がこの辺りに住み始めよく肥えた人間を食べたいと思い、権現さまに相談します。
 すると権現さまは「一晩で下の石段(写真の石段)から神殿までの百段の石段を作れば…」とおっしゃった。
 鬼は人間を食べたい一心で夕日が落ちるやいなや築き始め、真夜中には神殿近くまで築いてしまいます。
 あわてたのは権現さま。数えてみると99段まで出来上がっていて、百段目の石をかついで上ってくる鬼。何とかしなければと「コケコウーロ」と鶏の真似をします。これを聞いた鬼は「夜明けの鶏が鳴いた、もう夜明けか、わしはこのままでは権現さまに食われてしまう、逃げよう」と最後の石を担いだまま山を走り、一里半先でやっと石を放り、そのまま倒れ息絶えました。
 それを聞いた里人はこれで安心して暮らせる、これも権現さまのおかげと岩に彫んだ大日さまのお加護であると朝夕感謝するようになりました。
 
私の感想です。
1,なんぼ神様でも最初に権現さまが鬼に約束したことが間違ってます。里人の運命をもて遊んでいます。
2,権現さんが鬼をだましたらあかんと思います。
3,約束守れなかった鬼に「食われる」と畏れられる権現さんの方がよっぽど怖いです。
4,そんな鬼をだますような権現さん、里人も信用したらあかんと思います。
5,大体権現さんに相談する鬼さんは、鬼が良すぎます。

この話の熊野権現悪いやっちゃなあと、私は思います。もう一つ気の毒な鬼さんやなあと思います。鬼の健気さと誠実さが際だち、権現さまの非人道的というか非神道的ななさりようが分かる話です。
「宇佐・国東巡り」(地域文化出版)には、少し違う話が載っています。こちらの方はこんな話でした。
 田染の里の熊野には、昔から鬼が住んでいて里人を捉えて食っていた。このことを聞かれた権現さまが里人の難儀を救うために降りてこられた。
 権現さまは鬼を集めて自分が降りてきたからお前たちは立ち去れと通告します。すると鬼の首領は、代々住んできたこの土地を立ち去れないと反抗します。権現さまは、いっしょに住むことにします。そして自分たちのために社を造るよう命じます。鬼たちは「わけないこと」と応じます。「それなら、まず手始めに石段を築いてもらいたい。一夜のうちに全部築くことが出来たら今まで通り人間を食っても良い、しかしもし一番鶏が鳴くまでに一段でも残っていたら、無条件に山を下りてもらおう」と約束させます。
 鬼たちは喜んで石段を築き、真夜中までには八十段程築いてしまいます。
 あわてた権現三体は鶏を連れてきて、その尾を引っ張り無理矢理鳴かせます。鳴き声を聞いた鬼たちは、あきらめて仕事を投げ出して、残念そうに後ろをふりかえりながら山を下りていきました。
 鬼と権現さまの関係は何を象徴しているのでしょうか。私は先住民と征服の民との権力闘争のように思います。私はこういう話を読むと先住民の味方をしたくなります。先住民を怖い鬼として表現し権謀術作でやっつけた征服の民たちがこういう話を残したのではないかと思うのですが…勝手な思いつきと想像です。
 国東には鬼がたくさんいます。なぜかな?国東の鬼って何かを訴えているように思いました。

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