天王寺動物園のカバ
(ナツコ・テツオ・ティーナ)

2009・9・23(水)撮影
2009・9・27(日)10・4(土)作成

 天王寺動物園へは地下鉄堺筋線で行きました。「動物園前」という駅で降りました。降りてみてびっくり。何やら廃墟のようなビルなのです。いやビルと言うより廃墟と化したテーマパークといった感じです。これは何だ…と思いながら階段を昇っていくと、スパワールドへ。ここがスパワールドかと感慨深かったのですが、それより今までの気色悪い駅からの道の方が気になりました。このスパワールドの前から左を見ると新世界!
 階段を下りていくと、またこの階段が雑草の生えたもので、ネコが寝そべり、遅い昼ご飯を食べている人が座っているという繁華街の中とは思えないものです。何でもこの辺りに大阪の国技館があったとかでその説明板がありました。階段を降りたらすぐに見たことがあるずぼらやの大きなふぐの看板。新世界がすぐはじまります。
 どこやねん!天王寺動物園?通天閣のビルが見えました。
 よく分からないのですが、新世界のごちゃごちゃに圧倒されているうちに天王寺動物園の前にいました。

循環濾過器付きの池

 天王寺動物園のカバの池は、北園のアフリカサバンナゾーンの入口にあります。
 そこに上のモニュメントが置かれています。真夏になると熱せられるのでやけどに注意する必要があるようです。これに大勢の子どもたちが乗って写真を撮ってもらっていました。便所へ入ったら、このモニュメントは「テツオ」の等身大のものだと書いてありました。何で便所に書いてあるのだろうと思いました。
 カバは池の中にいます。池はつながっているのですが、大きな池と小さな池に分かれています。大きな池にテツオとティーナ夫婦。小さな池にテツオの母であるナツコがいます。名前は動物園の人に確かめました。あんなに丁寧にカバの説明(かばという動物)してあるのに、カバの名前や生年月日などが書かれたものがないのはちょっと不親切です。
 天王寺のカバは、1日48回稼働する循環ろ過機付きのプールにいます。そして色々なさかなと同居しています。カバは水の中でも大量に排泄します。当然水がにごります。循環ろ過機つきのプールが必要になるです。又、その大きい方の池の側壁の一部が透明のプラスチックで、私たちはカバの水中での様子を見られるように工夫されています。カバの背中に魚がまとわりついたり、カバの排泄物を魚が食べるという様子が見られるようになっているのです。よくアフリカでのカバの映像を見ていると、鳥が背中に乗って虫を摂ってやっている姿を見ることがあります。鳥の姿もこのカバ舎の中には見られるのですが、共生していると言うより鳥がエサを狙っているという感じに見受けられました。
 で、その効果ですが、私はそれほどでもないなと思いました。とにかくカバが水の中でほとんど動かずにぷっかり浮いているのです。(上の写真)同じ方向を向いているのです。動き回ってくれたらそれは迫力でしょうが、私がいた2時間余り動き回ることはありませんでした。名古屋東山動物園で勢いよく動き回る重吉を見ているものですから、やはり池が小さすぎるのではないかと思いました。もう一つ、陸に上がっている姿がなかなか見られないのも、陸の面積が狭いからではないかと思いました。どうも陸の部分は、カバ舎への通路にのみ利用されているような印象を持ちました。
 ちなみに、カバは泳がないそうです。東山動物園で見た重吉は確かに水底を走り回っていました。
 上の写真は一番入口に近い小さい池です。この池は2カ所からカバをウオッチできます。この池にはナツコがいます。そして、水がつながっている大きな池は向こう側にあり、私たちには公開されていないカバ舎が左側にあるようです。先ほど書いたプラスチック板のある場所は、アフリカの小屋風で、その中にTVビデオ設置されていて、カバ舎ができたときの引っ越し風景が何回も再生されていました。ナレーターはナツコという配役で。
 私は、京都市動物園のカバを見慣れているので、それに比べると天王寺のカバは至れり尽くせりの環境にいるように見えましたが、東山動物園に比べると、カバが生き生きしているようには見えませんでした。

シャッターチャンス

 天王寺のカバさんは、「どこにいるの?」とほとんどの人が言うぐらい、水に中にいる時間が圧倒的です。そして、よく分からない上記のようなプラスチック板越しのカバのお尻と、たまに息をするための目と耳と鼻の穴を見るだけで、5分も立ち止まらずにカバを見たような気分でその場を離れて行かれます。
 私は2009年9月23日(水)秋分の日に訪れました。これはたまたまなのですが、よかったようです。ふだん、天王寺動物園は4時半までです。しかし5・9月の土・日・祝日は6時まで開園しているのです。
 陸に上がってこないな…息をする瞬間をねらうしかないなとカメラを構えて撮っていました。すると、3頭のカバが、4時半に近づくと、新たな動きを見せだしたのです。陸に上がるそぶりを見せるナツコ。陸に上がったテツオとティーナ。私は忙しく20メートルほど離れた小さな池と大きな池を往復しながら、写真を撮ることができました。しかし5時近くなると薄暮を迎えておりシャッター速度は遅くなる上に、プラスチック板越しで、しかも板が汚れているので、思い通りにはなりませんでしたが。
 こういうことではないかと思いました。カバさんたち、ふだんは、4時半になったら、池から上がって、カバ舎に入るのです。しかし特別延長開園時のことはカバには関係がありませんから、普段通りの行動をとっているのではないでしょうか。
 

カバの名前

 私が、気がつかなかっただけなのかどうか、どのカバが誰なのかが分からないまま3頭の写真を撮っていました。帰り際に事務所へ行って聞こうと思いました。
 その前に、エサの時間を歩いておられた別のゾーンの飼育係の方に聞きました。「さあ、エサを与える時間は特別には…、事務所へ聞いていただけますか」と言うことでした。エサの時間なら陸から上がるだろうと思ったのです。その時間をねらってカバの池へ行けばよいと考えたのですが、うまくいきません。
 もう五時半になっていましたので、動物園出入り口付近で事務所を探していたら、2009年8月21日発行の「天王寺動物園情報誌」なるものを見つけました。何かカバのことが書いてないかなと見たら、ありました。
お誕生日おめでとう!
カバの「ナツコ」
8月24日生まれ 37歳
 1972年8月24日、夏の暑い日に天王寺動物園で生まれたナツコは今年で37歳。クロサイのサッちゃんが園内の同級生コンビです。人間でいうと80歳ぐらいになりますが、まだまだ元気です。ナツコは5頭の赤ちゃんを産み、その最後の子どもが現在26歳のテツオです。家族はもう一頭、テツオのお嫁さんでメキシコからきたティーナ(10歳)ティーナとナツコは嫁姑関係になりますが、ティーナはナツコに一目おいていて、仲良しですよ。ナツコの性格は慎重で落ち着いていて、家族の中心的存在です。まだまだ長生きしてほしいですね。(飼育員村田行雄さんからのメッセイージです) 
 これで、3頭の名前が分かりました。事務所はかなり離れていましたが、行くことにしました。途中で年輩の動物園の関係者の方がおられたので、池毎のカバの名前を確かめました。私が思った通り、小さい池にはナツコ。大きい池にはテツオとティーナがいるということでした。その方は「テツオはその当時の園長の名前だ」と教えて下さいました。事務所へ行くのはやめました。時間が遅いと言うこともあったのですが、よく場所が分からなかったのです。

ナツコ(メス・37歳)

 上の説明にある通りです。ナツコのいる池は、テツオらのいる池とつながっているのですが、そちらが気になるのか、絶えず近づいていました。左の写真は四時近くになって、陸に近づき口を大きく開けた瞬間です。はっきり顔を見せたのはこの一回きりでした。
 柵が設けられていて、往き来できないようになっています。右の写真は、隣の池との境で水に潜るナツコです。息をするために顔を水面から上げたところです。この時に、見ている人が、「カバや!」と声を上げるのです。

 テツオ(オス・26歳)

 私はかばのしっぽがどうしても気になります。テツオのしっぽは太くて、渦を巻いているように見えます。そして、鎧を装着しているような後ろ姿です。26歳というのは、人間で言えば何歳ぐらいになるのでしょうか。テツオは4時半に近づくと、さっさと水から上がってきて、通路を通りカバ舎へ消えようとしました。しかし通路はふさがれているようで、戻ってきて、もう一度水に戻りました。

ティーナ(メス・10歳)

 ひょっとすると、下の二枚の写真もテツオかもしれません。自信がなくなりました。五時前にもう一度陸に上がって来たのです。私はてっきりティーナだと思って下の写真を撮りました。その時はおしりの辺りがテツオじゃないと思ったのです。しかし今このように並べてみると分からなくなりました。間違っていたらごめんなさい。
 確かに2頭のカバが大きい池にいました。ティーナまメキシコからテツオの嫁としてきたカバさんです。

天王寺動物園のカバの歴史
 これから書くことは、「だからカバの話」(朝日文庫・宮嶋康彦著・1999・9・1発行)に書かれていたことです。
 「私がカバが好きなわけ」にも書いたのですが、この本はすごい本です。いくつもすごいことがあるのですが、まず、全国のカバの系図を明らかにしていることです。次に日本のカバがどのように人間に扱われてきたかを描いています。このことは、自然の中にあって特殊な存在になってしまっている「ヒト」という動物のおごりたかぶりぶりをあぶり出すことになります。動物園(移動動物園を含む)や動物商そして私たち動物園を訪れるもののありようを大変鋭い形で提起しています。
 宮嶋さんは「生きた動物を飼育する動物園は、種の保存など、研究目的の国家機関がひとつあればいいというのがぼくのの持論だ」と書いています。動物園の状況と野生の状態を知れば、「生きた動物を遠くへ出かけずに見たい人も我慢するだろう」と言いきっておられます。
1,ナツコの祖父で、テツオのひいおじいさんは、東山動物園の重吉・福子の第2子(1959生・長男)である。
2,その第二子は、2年3ヶ月両親とくらした後、姫路市立動物園に引き取られた。
3,姫路にはメスカバがいたが、第二子が大人になる前に死亡する。(1967年)
4,後妻として福岡市動物園から1966年生まれのカバが来たが、実はこのカバはオスだった。
5,オスどうしでは仕方ないので、年をとっている方の第二子が天王寺動物園にトレードされる。(1968・1月)
6,天王寺動物園で「フトシ」という名を付けられる。
7,ペアリングした相手は「デブコ」という名で、1952年ドイツ・ハーゲンベックから購入されたメス。
8,デブコは15年間フトシが入園されるまで、一頭でくらしてきた。
9,夫婦に8頭の子どもが生まれた。ナツコはこの夫婦の子で1972・8・24生まれ。
10,「デブコ」1983年1・11死亡。
11,「フトシ」娘とペアリングさせられる。4頭生まれる。しかし「フトシ」1983・12・4死亡・24歳。
12,「フトシ」「ナツコ」父娘の間の子が「テツオ」1983年10月10日生まれ。
13,「テツオ」「ナツコ」交尾目撃される。幸い子は生まれなかった。
14,近親交配係数(近親交配によるマイナス要因の発露を数値化したもの)で最悪の結果を示したのが天王寺動物園のカバ。(当時の天王寺動物園園長が試算)
14,天王寺動物園1997年10月、13億円かけて新カバ舎オープン。今まで1つのプールで飼われていた親子を別居させる。
15,「テツオ」に南米から輿入れ予定。費用は500万円。カバの値段はそれほどでもないが輸送料と保険関係にかかるという。しかし事故で中断。
 宮嶋さんがお書きになっていることの続きとして、ティーナがテツオのお嫁さんとして輿入れしたということになります。まことにめでたいことです。
 わたしは、これを読み直して、「ナツコ」が「テツオ」と「ティーナ」のいる仕切られた池との境の柵にいつもいる姿を思い出しました。「テツオ」と「ティーナ」もその辺りにいつもいました。
 動物園の飼育員の方の「ティーナとナツコは嫁姑関係になりますが、ティーナはナツコに一目おいていて、仲良しですよ。」が本当ならいいけどなあ…。と思いました。ナツコは宮嶋さんによると、神経質で稀に見る臆病なカバだそうです。水温10度を切ると必ず下痢をするらしいのです。宮嶋さんは、天王寺動物園が、動物園のすぐ側を高速道路が通っているという都市型動物園であることが影響しているのではないかと心配しておられるようです。
 きっと天王寺動物園もカバの近親交配に配慮して新カバ舎を造られたのでしょう。そして、子カバの誕生を待っておられるのでしょう。
 私は、カバがその野生を持続するためには、自由に走り回れるプールと、全力疾走できる草原が必要だと思います。そして群れで生きる動物なのですから、数の確保も大事です。果たして動物園にそれが準備できるかといえば、できない相談だと思います。となると、宮嶋さんの言う結論は正しいと言えそうです。しかし動物園がなくなるというのは寂しいなとも思います。
 今度天王寺動物園を訪れたら、ティーナのことをしっかり調べてこようと思います。(2009・10・3)
私がカバ好きなわけ 
2002・8・20up
クイズ@かばのしっぽ
2002・8・15up
クイズAこの中に
2002.9.20up
わたしのかば写真館@
2002・8・14
私のカバ写真館A
2005・2・7〜
京都市動物園のカバ ナルオとツグミ
2002・9・22up
おびひろ動物園のかばさん
2002・10・7up
姫路市立動物園のかばさん キボコ 
2003・3・28up
東山動物園3代目重吉2代目福子と赤ちゃん
2003・8・29up
東山動物園コビトカバ(小次郎・小夏)
2003・8・29up
別府山地獄昭平君
2005・1・1up
カバという動物
(天王寺動物園パネル)
2009・9・27up
天王寺動物園のカバ
(ナツコ・テツオ・ティーナ)

2009・9・23撮影
日本で最初に誕生した子カバ剥製
(京都市動物園)

2009・10・9作成
メトロポリタン美術館展にて
2002・11・17up
カバの絵本館
2003・10・18up
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