木喰さんを訪ねる旅(12)
南丹市清源寺木喰仏再訪

(京都府南丹市八木町) 

 私がこの清源寺へ最初に行ったのは2005年9月だから、もう11年の年月が経過した。私が行ったときはまだ町村合併前で、京都府船井郡八木町であった。
 このお寺の木喰さんとは、その後も写真などでお会いすることはあったのだが、「木喰展」でも会えなかった。
 2016年6月末再訪することが出来た。上の写真の山門及び羅漢堂など境内の佇まいは変化がなかったのだが、周辺や前の道路などは、随分変化していた。ご住職はまだお若い方だった。親切丁寧に対応して下さった。
 私が写真展などで下手な仏像の写真や彫刻を出したりすると、かろうじて円空の名前は出てくる。「八木町にすごい木喰仏がある」と言っても「へえ」とおっしゃって、訪れたことがあるとおっしゃった方は、円空と間違って記憶されていた方1名のみ。車なら京都市内からわずか1〜2時間程度で行けるのだが、京都市内での知名度は限りなくゼロに近いと言えよう。
 この寺の木喰仏は、木喰さんの中でも「ONE OF THE BEST」の22体である。全ての木喰仏を見て回ったわけではないので、偉そうなことは言えないが、89〜90歳時に最高傑作を彫るというこのバイタリティーにまず驚く。その後猪名川でまた傑作群を彫ったのであるから、まさに超人である。猪名川同様、新潟の大工青柳與清さんが同行しておられる。青柳さんの子孫には、木喰さんが「京都へ連れて行ってあげよう」と誘ったという伝承が残っているそうである。青柳さんは京都見物が、できたのであろうか?猪名川での造像活動後、最後に諏訪で別れて新潟へ戻られたらしい。
 その後の木喰さんの消息は途絶える。
  
 この寺の木喰さんは、現在収納庫内に並んでおられる。

(1)羅漢堂の釈迦三尊と十六羅漢

 このお寺は、曹洞宗です。開山当時は天台宗だったそうです。そして、ご本尊は阿弥陀如来。寺の歴史を感じさせます。
 この羅漢堂の釈迦三尊、よくある釈迦三尊ではありません。普賢菩薩、文殊菩薩との三尊像が多いと思います。しかし、法隆寺は、薬王、藥上菩薩だそうです。そして鎌倉新仏教である禅宗各派になると「人間釈迦」を重視し、大迦葉尊者、阿難尊者を配し、十六羅漢や十大弟子を従わせるという形になります。この釈迦三尊と十六羅漢の配置は、曹洞宗の寺にふさわしいのです。
 
迦葉尊者は「頭陀(托鉢乞食行)第一」と呼ばれ清貧の生活を送った十大弟子の一人で、釈迦の後継者(第二祖)である。
 阿難尊者も十大弟子の一人で第三祖であり、「多聞第一」の人で美男子だったそうである。
 清貧に甘んじた迦葉尊者は、托鉢用の容器を手に持ち、痩せて骨と皮のように彫られている。それに対し阿難尊者は微笑んでおられ、衣服も整い美男子である。
 お釈迦様は、見る角度で随分違った印象をお受けする。お顔は栄養が行き届いておられるようで肥満気味ではなかろうか。螺髪が大きくてモダンな印象をもつ。木喰の釈迦は大きい螺髪のようだ。この台座の形式は何というのだろうか。蓮座の下に円筒形のものがあって、その下は鉄兜のような形をしている。

(2)釈迦三尊

 阿難尊者(90cm)
文化4年正月廿日
釈迦如来(138cm)
文化3年12月廿四日 
迦葉尊者
文化四年正月廿六日 

(2)清源寺での木喰さんの注目点

@十六羅漢が全て揃っている。
A釈迦三尊が揃っている。
B書画も残されている。
C13世住職佛海が「十六羅漢由来記」を残している。(詳しくは「木喰さんを訪ねる旅(1)清源寺の十六羅漢」参照)これによって、木喰さんの衣食住、外見などが具体的に分かり、どのような宗教活動をしておられたのかも分かる。
D木喰さんは一千体満願を果たしたのはこの寺かもしれない
E自分の名乗りを「五行菩薩」から「明満仙人」と変えた。
Fこの寺にある22体の内訳は、釈迦三尊(3体)十六羅漢(16体)の他に、聖観世音、廿三夜勢至(月待ち)、住吉大明神の3体である。
G滞在したのは文化3年10月(89歳)から翌年2月25日(90歳)の五ヶ月間である。
Hまず十六羅漢、続いて釈迦三尊、勢至菩薩、聖観世音、住吉大明神と彫っているが、文化4年正月に入って、蔭凉寺の自身像や薬師三尊が入っている。
 このお寺の本尊が阿弥陀如来だから、その脇侍である観音(39cm)勢至(78cm)を彫ったと思われる。が、その大きさが倍近く違うのが不思議である。
 住吉大明神は末社が近くか境内にあるのか、全く見当がつかない。聞けば良かった。住吉大社は大阪の神社で、毎年年始に大勢の参拝者がお参りされる。海の神様で、国宝の本殿をもつ古社だということぐらいしか知識がない。八木町は山の中で、海とは縁がなさそうなだけに想像がつかない。
 

(3)ユニークな十六羅漢

 上左から、ビンドラバラダージャ尊者(この方は頭頂部が盛り上がっており、肉髻のようだ。大きな眼で、ギロリと睨んでおられるのに口元は笑っているようでやや不気味である。
 真ん中のハンタカ尊者はやや斜め上を見ておられる。収蔵庫ではその右の明らかに酒樽を前にして、酒を飲んで恥ずかしくて顔を隠しているジュバカ尊者の前におられる。
 住職が、この二体を見ていると楽しいとお話しされていた。木喰は怒りを表現するときには、顎髭を生やさせるというのを聞いたことがあるが、ハンタカ尊者は、破戒行為をしているジュバカ尊者に呆れているのか、見て見ぬふりしているのかどうだろう。わかっちゃいるけど止められないことを木喰が居直っているようで、人間木喰が現れている。
 下左の像はカナカバリダジャ尊者という名の方で、この方もどうも酒を嗜んでおられるようだ。しかしこの方は堂々としておられ、にこやかに微笑んでおられる。何がいけないの?と問いかけておられるようで、「どうぞどうぞ」とお勧めしなければならないようだ。16羅漢像の中に自身像(アジタ尊者)を紛れ込ませている木喰だが、この像も自身像によく似ている。
 真ん中は、スビンダ尊者。ウインクしておられる。お茶目な像である。江戸時代からウインクってあったのか、当時は何て言ったのだろうかと思う。木喰は自由だ。こういう精神の自由をもった江戸時代の僧がいたことが楽しい。
 
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