木喰さんを訪ねる旅(14)
長野県諏訪郡法隆寺十一面観音堂

(長野県諏訪郡富士見町乙事) 

(1)普賢菩薩
(109.0cm)

   天明6年(1786)4月14日木喰69歳の時の普賢菩薩像である。木喰の普賢菩薩像はこの一体だけである。丁寧な彫りでソフトなイメージを持つ像である。
 93歳まで生き、80歳、90歳超えて最晩年の作が最高傑作だと言われる木喰は、69歳の作では初期の作だと思われるのがすごい。
 この像は上右の法隆寺十一面観音堂(真言宗智山派)にあったが、防犯上の理由から現在はそのすぐ横にある上左の富士見町乙事区支所二階に保管されている。法隆寺の他の財物といっしょにガラスケースに入れられている。しばらく前に拝観なさった方は、倉庫のような場所にゴロンと横たわって置かれていたとおっしゃっていた。正直、その方が写真は撮りやすかっただろうなと思った。ガラスケースに入っているので照明がガラスにあたり自分や他の方が写り込んで写真にならない。写真を撮らせていただけるだけでありがたいのだけれど。カメラをガラスにくっつけて撮るしかなく全身像が撮れず、左のような細切れ写真になってしまった。
 木喰は長野県を3回訪れてたことが明らかになっているらしい。天明6年のこの時は故郷甲府越畑から九州を目指したようだが、途中長野を訪れている。このあと愛知から岐阜を経て、滋賀へ向かい竹田神社で狛犬を残している。
 木喰は堅い木を好んで彫刻したようである。この木もおそらく楠ではないかと言うことであった。これだけ大きければ相当重たい事が予想できる。ガラスケースから出すのも一筋縄ではいくまい 2015年開催された円空・木喰展に出品された像である。
 
   背銘を見ることができなかったのであるがこのように書かれていると講師の小島梯次先生に教えていただいた。左から(縦書き)                
      天明六年四月十四日
   一切有情皆
如来蔵普賢菩薩
  自體遍故  木喰 
         行道(花押)
 日本廻国  三界無庵無佛

 これは大般若波羅蜜多経巻第五百七十八第十般若理趣分にある「一切有情皆如来蔵普賢菩薩自體適故からの引用だそうだ。意味は、「全てのものには仏性があり、虚空蔵菩薩自らの存在がそれを証明している」という意味のようです。
 三界というのは一切衆生の輪廻する三種の世界、すなわち欲界、色界、無色界、衆生が活動する全世界を指す。(広辞苑)小島先生は過去現在未来を意味するとも考えられるとおっしゃっていた。意味は日本中を廻国している自分にはすべてが無であるということらしい。
 昔「女三界に家なし」と言ったそうで、これは女の人には安住する家がないという意味である。男尊女卑の時代の産物である。
 私は日本廻国している自分は何事にも囚われず生きているというぐらいの意味かなと思っている。
 

(2)その表情と象

 文殊菩薩は普賢菩薩とともに釈迦如来の脇侍としておられる印象が強い。しかし女人成仏をとく法華経に登場されるところから、貴人女性が信仰したという。木喰の普賢菩薩は輪を被っておられる。髪の毛もふくよかで耳を覆っている。肩まで掛かって伸ばしているのかどうかよく分からないのだが、どうも女性のような印象を受ける。顔は冥想中の年配女性のような印象だ。手で衣を丸めるようにしている。
 象であるが、この手足のありようがどうもよく分からない。象の背中に乗っておられるようだが、不自然である。牙の目立つ象だが、耳が小さい。小さい歯が丁寧に彫られている。
 江戸時代1728年徳川吉宗の時代にベトナムから象が二頭日本へ来た。大変な人気だったようで街道筋は人であふれたとか。メスはすぐに死んだが、オスは1749年まで20年間生きたらしい。木喰は同時代を生きている。この象を見た可能性はある。昔から普賢菩薩像は絵画でも彫刻でも日本に伝えられてきたから、既知の認識で作像できたかもしれないが、ひょっとしたら本当の象のイメージかもしれない。
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