木喰さんを訪ねる旅(26)
十輪寺
藤枝市岡部町三輪925
子安地蔵大菩薩像
虚空蔵菩薩像
軸「新号三社託宣」

 2019年4月7日(日)暖かい陽ざしに恵まれ、中日文化センター主催紀行講座「微笑みの木喰仏」日帰りツアーに参加してきました。静岡の木喰仏を現地で拝観するのは初めてです。名古屋駅太閤口から地下へはいると、バスツアーの方々の集合場所になっているらしく、様々なツアーの方達がお集まりでした。自分のツアーの場所へ行くと大勢の方で、お知り合いの方をやっと見つけて安心しました。バスは満席でした。
 今日は静岡県藤枝市の三ヵ寺を訪れます。①十輪寺、②光泰寺、③梅林寺です。講師は小島梯
次全国木喰研究会評議員。
 木喰さんは、こまめに旅日記のようなメモ書き(南無阿弥陀仏国々御宿帳)を残しておられて、藤枝におられたのは83歳の時。上記の御宿帳に、フジエダ、利八、六月ヨリヲカベイナ川ヤ、マリコ(宿)などの記載が見えます。
 この前後の木喰さんの廻国の様子を見ますと、
寛政9年…足かけ10年の九州滞在を終え、国分寺出立。北九州から下関へ、山口県内(秋芳、萩市)から島根県へ、そして山口に戻り、四国巡礼をします。さらに大阪に着き、東海道を東へ。
 寛政11年(1799)11月~12年(1800)9月13日まで静岡に滞在しました。磐田、藤枝、森町などの地名が見られます。その後10月25日には故郷の丸畑へ戻りました。
 この時期の木喰さんは、晩年の木喰様式を確立させていた時期と言えそうです。山梨のふる里丸畑の四国堂の諸像から新潟高岡、柏崎、魚沼、京都南丹、兵庫猪名川へと続く晩年の傑作の先駆けとなる木喰仏が、静岡で造像されていたのだなという感想を持ちました。

(1)子安地蔵大菩薩像
(136cm)

 子安地蔵菩薩と虚空蔵菩薩、何の関係もなく彫られたのかと思ったのですが、虚空蔵は「空・宇宙」を意味しています。地蔵は「大地」ですから大地と空・宇宙を名前に冠した二菩薩を、この寺に残した事になります。スケールの大きい話です。
 光背には光明真言と地蔵の種字「カ」が書かれています。背面は拝見できませんでしたが、晩年に書かれている文字群が書かれているそうです。「日本千タイノうちなり」の文字。阿弥陀経にある木喰が好きな「聖朝安穏増寶壽」「天下安楽興正法」の文句。「寛政12(1800)甲歳七月十二日」と日時も墨書されています。
 
 
 こういう円形の光背の外苑部に三角柱に刻みを入れて、第二周目に光明真言を書き込むそして、三周目にお像の頭部が入るという形式は、この後木喰が多用します。衣の襞を強調して、ふかふかの綿入れのような感じにするのも後々まで続きます。木喰さんご本人は、単衣の墨染衣で、大柄で痩せがた長身だったようですが、彫られる像は、福々しく厚い衣を着ています。
 子安地蔵と子安観音とがよくあると思うのですが、子どもは唐子(中国の子ども)のようです。頭を上部で結んで、何か容器に入れた飲み物を飲んでいます。瓢箪の場合もあります。この唐子の顔がひねていないかという感想があって、よく見てみたのですが、確かにあまり可愛くない。この子は木喰本人ではないかという意見もありました。
 この微笑を好ましく思うという人が大半。が、中にはわざとらしいという人も。眉が太い。目が細く弓なり。福耳で耳たぶが厚い。口角を後方に引いて笑うというわかりやすさが魅力です。

(2)虚空蔵菩薩
(113cm)

 虚空蔵菩薩…虚空のように広大無辺の智恵と福徳を持つと言われ、衆生の諸願を成就させる菩薩。蓮華座に座し五仏宝冠を仰ぎ、福徳の宝珠、智恵の宝剣を持つ。求聞持法の本尊。
 私は丑年なので虚空蔵菩薩である。虚空蔵菩薩と言えば、弘法大師が「虚空蔵菩薩求聞持法経」を信じて室戸岬で修行されたというあの仏さんである。その真言を百万遍唱えれば、記憶力が増進するという知恵の仏さんだ。金星(明星)とも関係があるらしくて、弘法さんが「明星来影す」とおっしゃったのは、虚空蔵菩薩の姿を見たという意味かもしれない。この虚空蔵菩薩の真言が難しい。覚えられない。1回も言えないのに到底百万遍は言えない。
 京都嵐山に法輪寺という十三詣りの寺がある。「こくぞうさん」の愛称で呼ばれる寺である。十三歳になったら詣でて、祈祷をしてもらい、習字をする。自分の好きな漢字を一字書く。私は勝負師でもないのに「勝」という寺を書いた。帰り。「渡月橋」を振り向かずに渡る。私の子ども達も連れて行った。大人に近づいている通過儀礼的な信仰なのだろう。

(3)「神号 三社託宣」軸

三社託宣とは 
 天照大神・八幡大菩薩・春日大明神の託宣を一幅に書いたもの。室町時代から作られ、江戸時代吉田神道によって広められ、後に崇拝された。(広辞苑)
木喰のこの軸は
 上部二段には木喰が仏像背銘によく用いる阿弥陀経の一節「聖朝安穏増寶壽」と「天下安楽興正法」の文字の間に、全国各地の神々の名が列挙されている。秋葉、日光、天照三社、金比羅、愛宕、、稲荷、七福天、天満、日本大小、年徳、当所之氏神、一切三寶諸天。
 下段には三社託宣が書かれている。三社とは八幡大菩薩、天照皇太神、春日大明神のことであり、それぞれ『清浄』『正直』『慈悲』の徳目を称える内容が書かれている。
 それぞれ二つの教えであるが、例えば八幡大菩薩の清浄の教えは「縦え鉄丸を食すと雖も、心穢れたる人の物を受けず」など勇まし檄文調の文である。
 一説によると、八幡大菩薩は武家を、天照皇太神は天皇家を、春日大社は公家を象徴しているという。
 最後に木喰の署名花押がある。
天一自在法門木喰五行菩薩(花押)
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