木喰さんを訪ねる旅
(34)
木喰と伏見 
 

木喰伏見来訪・通過しただけ
寛政11年(1799年10月8日・82才)

①三十石で伏見港へそして大津街道から近江へ

木喰さんを訪ねる旅(33)で京都府下、市内の有名寺社を巡っていることを書いた。その後の来訪の記録は、「御屋と帳」の最後に出てくる。
 四国松山道後温泉を堪能した木喰は、寛政11年(1799)10月2日船を使って瀬戸内海を渡り大坂安治川の船問屋に現れる。
 その記載は以下の通りである。

〃 十月二日ニ大坂フ子トンヤ(大坂船問屋)
一 二日 大坂アジ川(安治川)
 これ以後「御屋と帳」の記録は途絶え、「南無阿弥陀仏国々御宿帳」の最終ページ近くにその後の消息が記載される。
十月 大坂 アジ川(安治川)
二日より八日立  ナタヤ喜兵衛
八日京フシミ(伏見)へ 三百十文 ヨフ子(夜船)
九日 ヲフツイツツヤ(大津井筒屋)四十五文

 これを見ていると八日に大阪を発って、九日には大津に着いている。伏見は通過しただけである。十月八日夕大阪を出て、三十石舟の夜船に乗って(大坂~伏見まで上りは十二時間)九日早朝伏見に着き、大津まで大津街道を歩いたと思われる。
 大津街道は伏見街道の墨染から藤森神社、京都教育大学南門前を通り筆坂深草谷口町へ抜けて、大岩街道から山科追分へ出る道である。東海道五十七次の一部である。ちなみに東海道五十三次は江戸から京都までを言い、五十七次は江戸から大坂までを言う。
 それにしても81才にしてこの健脚ぶりと強行軍。この後の十年間に代表作を次々彫る。
いやすごいバイタリティである。 

②船賃310文にはかこまし賃が含まれているのでは?

最初見たときには当時大坂から伏見までの三十石舟の船賃は310文だったんだなと思った。以前に桂米朝さんが、「三十石夢の通い路」についてまとめて書いておられたものがあったなあと思い探してみたら出てきた。岩波書店2004年「桂米朝集成第2巻」P,311『三十石について』という文章である。そこに書かれていたことをまとめてみた。

■「三十石船」について(桂米朝集成第3巻より)
・細長い笹の葉形の苫舟
・昼舟は朝出発で夕方に着く 夜船は夕刻に出て早朝に着く。
・天保8年刊「増補発船独案内」によると
 上り一人にて船賃180文 但、かこまし賃は別の事。
下り船一人船賃84文。但、上りは途中より乗り候ても船賃同じ事也。下りは途中よ  り乗り候ば、一人前百文。
ふとん貸賃は一畳に付き18文より、段々あり。下りは同断24文より段々あるなり。
 かこまし賃とは、二人前三人前と銭を払えば、竿や小板で仕切って広く坐れ、横臥もで きたということ。
 明治維新頃船賃は上り一人148文、下り72文と安くなっている。

 木喰が三十石に乗った寛政11年(1799)とここに出ている天保8年(1837)では40年近くの開きがあり、単純に運賃を比較はできないが、310文と180文では差が大きすぎる。私は木喰はかこまし賃を払いふとんを借りて乗船したのではないかと想像している。ゆっくり寝るために二人分の船賃とふとん代金を支払ったのではないかと考えた。
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