円空さんを訪ねる旅(1)

奥飛騨一重ヶ根禅通寺・円空庵

 岐阜県を旅していると思わぬ場所で円空さんの名を目にすることがある。
 昨年の夏(2007)長野へ行った時もこんなことがあった。乗鞍高原へ行く前に奥飛騨温泉へ泊まることに決めて宿を探した。新平湯温泉に『円空庵』(禅通寺)という国民宿舎があることが、分かったのでさっそく予約した。ひょっとしたら円空さんと出会えるかも知れないと期待してのことだった。
 円空さんは元禄3年の春から一年あまり奥飛騨の温泉に湯浴みしたそうで、そのとき逗留し宿にしたのが禅通寺で、『我が宿の一重の梅の開くらむ 九重八重の花のとなりに』という和歌を残しておられるのだそうだ。
 この寺の山門(鐘楼)が立派であった。その前に左のような円空仏の模刻があった。住職がおっしゃるには、もともと飲食店に置いてあったのだそうだがその店に幸運を呼ばなかったようで、住職が引き取りを依頼されたてここにあるとか。右の歓喜天はインドのものとか。この寺は曹洞宗らしいが歓喜天とのつながりもあるようだ。
 結論を言うと、円空仏と出会えなかった。何でも円空仏は十七体この寺に保存されているそうだ。大いに期待していたが、住職は「一般公開していない」とおっしゃった。「絵葉書や写真集もないのか」と食い下がったが、「ない」と言うことであった。以前に新聞社の求めに応じて『円空展』に出品したこともあったけれど、悔やんでおられるようであった。信仰の対象である仏を美術品として鑑賞することに抵抗を感じておられているようであった。最近の円空仏の盗難やインターネットオークションでの円空仏のネット販売(そんなことがあるのかとびっくりした)にも危機感を持っておられた。
 この秋に特別に頼まれて公開するからとおっしゃった。何でも観光キャンペーンでどうしても協力しなければいけないようになったとかで、そのために陳列ケースを準備しなければならないともおっしゃっていた。十月に公開と言われても奥飛騨を再訪する余裕はない。 
 国民宿舎『円空庵』は源泉かけ流しのお風呂である。湯あかが床の色を変化させて不思議な色になっている。部屋にトイレと洗面所はついていない。料理は奥さんの心のこもったものでおいしかった。 

ついでながら、最近インターネットで次のような記事を見つけた。読売新聞2007年10月25日中部版に載ったようだ。

 高山市奥飛騨温泉郷一重ヶ根の禅通寺(小倉賢堂住職)で、所蔵する円空仏17体の特別公開が始まった。これまでは、同寺の朝の座禅に参加した人しか拝観できなかったが、今月から始まった観光PR「ひだ・みのじまんキャンペーン」に合わせて公開した。
 円空仏は、江戸時代初期の僧、円空が彫った作品で、生涯に10万体以上の仏像、神像などを彫ったとされている。小倉住職によると、公開している円空仏は、晩年の約1年間、寺に滞在した時に作られたものや地元の人たちのために彫られた仏像だという。サワラ材でできた円空仏は「微笑仏」といわれるような柔和な顔立ちの仏像が多く、子どもを腕に抱いた子守地蔵、薬師如来、阿弥陀如来(あみだにょらい)などが並ぶ。
 あれ?朝の座禅を申し込んだら見せていただけたの?「参禅すれば拝観できますよ」と私に言ったら、円空仏見たさに私は参禅するだろうと見抜いておられて、そう言う不純な動機で参禅するなということだったのかな…分からないまま記事を読み返した。
 しかしながら、『禅通寺』で円空仏に会えなかったことがかえって私の円空仏に会いたい願望を刺激した。
 実は、円空庵のあと同じ高山市丹生川町にある千光寺へ回ろうかと思っていた。でも道が細そうなことと「信州の山々と高山植物」の方に魅力を感じて止めた。 
*追記 五来重著「円空と木喰」第五章1「美濃の奥山」に、次のような記述を見つけた。高賀神社や荒子観音寺の歓喜天にふれたあと、下記のように書かれている。
 「円空の歓喜天はもう一体、飛騨上宝村一重ヶ根の禅通寺にあるが、もと十石岳頂上にまつられていたもので、像容は象頭人身の抱擁ではなく、鼻の大きな僧形座像で、坊主頭のくびれるほどの鉢巻きをしている。これが「尊形(かり)」の意味かどうかしらぬが、およそそのような歓喜天は儀軌も作例もない、円空の独創であることはたしかである。」
 「尊形(かり)」は、このような文脈の中で問題になっている。
 「円空歌集に「尊形(かり)うつす花賀(が)とそ念ふ 歓喜(よろこび)の 法の泉も 湧(わ)きて出(いず)らん」とあるのも歓喜天を詠んだもので、「尊形」にわざわざ「かり」と仮名をつけ、歓喜の法の泉を湧出さすなど、円空も案外隅に置けない一面を歌にあらわしている。円空仏と尼寺の関係もたしかに多いようで、きびしい苦行性、隠遁性の反面、聖の世俗性が顔をのぞかせる。」「聖であれば尼寺へ通う特権も持っていても、不思議ではなかったのである。」
 禅通寺の円空歓喜天は、円空仏の中でも大変興味深い位置にある像のようだ。

 京都へ帰ってから名古屋の荒子観音寺や岐阜羽島の中観音寺など日帰りできそうなところへ行きたいな行こうかなと次々思った。
 結局私が行けたのは一番近いところにある大津市「三井寺」の円空仏であった。
 
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