円空さんを訪ねる旅(22)

上五知薬師堂薬師三尊
(三重県志摩市磯部町上五知)

 私の円空さんを訪ねる旅、今回は三重県(伊勢志摩)です。
 伊勢志摩での円空さんの足跡は延宝2年のものが有名です。
 寛文13年(延宝1)円空さんは大峯山で修行し自分に対する自信を深めたと言われています。そして2度目に延宝3年にも大峯山に登っています。その中間の年延宝2年(1674)43歳の円空さんは三重を歩いています。その時の足跡が伊勢志摩地方に残されているのです。
 この時以降円空さんの作る神仏や絵画に変化が起こり、円空さんがまさしく円空さんらしくなるという評価が定説のようです。伊勢志摩は円空研究にとって大きな意味を持っている土地なのです。
 しかも最近になって、円空さんの極初期像が三重県で見つかって、かなり早い時期に円空さんが三重へ足を伸ばしていたことが分かってきました。
 そして、大峯山へ籠もる前の年寛文12年にも訪れたらしいのです。
 伊勢志摩地方は円空さんにとってどういう土地だったのかなあと思いながらその足跡を訪ねてみます。

磯部町上五知ってどこ?

 伊勢も志摩もほとんど地理感覚がないので磯部町上五知と言ってもさっぱりどこにあるのか、どんな場所なのかが分かりません。
 平成16年10月の市町村大合併で志摩町、阿児町、磯部町、大王町、浜島町が志摩市になったようです。地図で見ると、鳥羽市から志摩市へ入ったらすぐの町が磯部町のようです。JRは鳥羽から先は志摩とはつながっていません。近鉄に乗ったら賢島まで行けます。その近鉄賢島線に「五知」という駅があることが分かりました。上五知ではありませんが、当たらずとも遠からずだろうと出かけました。
 車で鳥羽を出発して、かなり気をつけていたのですが、五知駅が見つかりませんでした。気づいたら次の駅沓掛でした。行き過ぎたようです。他にも行きたい場所があるのであきらめて、次の目的地阿児町立神を目ざすことにしました。そのあと志摩町片田へ行きました。そのことは後日UPすることにして…。
 しかし、どうもこの上五知薬師堂が気になって引き返しました。 
 

五知駅見つけた!

 国道167号を志摩から鳥羽に向かいました。沓掛駅が分かりました。駅と国道はほぼ並行して走っていますからそこからは気をつけました。五知駅が見つかりました。駅から伸びている細い道が国道とクロスして集落へ伸びています。この集落のために作られた駅のようです。田んぼ、川…文部省唱歌「ふるさと」に出てくるような村です。薬師堂がないかと思いながら道を進みました。車一台がやっと通れる道です。300mぐらい進みました。そこで集落は途切れました。広域避難所で引き返しました。これは見つかりそうもないなと思いました。
 もう一度集落の入り口辺りまで戻ったら、もう八十をこえたおばあさんがバギーを押しておられるのに出逢いました。「上五知薬師堂ってどこですか?」と聞きましたら、「この道をまっすぐ進むと家がなくなるけれど、さらに進んでいけば、10軒ぐらいの集落がある。そこが上五知です」と教えて下さいました。そして駅の近くが「下五知」だとのことでした。
 これはひょっとすると円空さんに会えるかも知れません。
 かなり山道を進みました。確かに集落に着きましたが、10軒じゃなく20軒はありそうに思われました。
 この上五知集落の入り口辺りにお堂がありました。「ひょっとしたらこれかな?」とのぞきに行ったら、ナント中に人がいました。ビックリしました。4名の年輩の女性が話しておられました。お堂が開いて人が顔を出されました。「すみません、薬師堂はここですか?」と申しましたら「この上に見えているあのお堂だ」と教えて下さいました。「車で登れますか」と言いますと「行けます」とのこと。急いで車に戻って出発しました。私は気づかなかったのですが、妻が「さっきの人が今、手招きしたはった」というのです。いやそんなはずはないと薬師堂へ行ってみました。

上五知薬師堂到着!

 道は更に細くなっていました。峠に薬師堂はありました。三叉路でやっと車の方向転換をして薬師堂の前に立つことができました。この細い道は朝熊山へとつながっている道なのです。
 朝熊山は500m級の山ですが、この地方の最高峰の山です。古くから山岳信仰の山であり、空海が真言密教の道場として建てた金剛証寺があります。また金剛証寺が伊勢神宮の鬼門(北東)であることから伊勢信仰と結びつき、「伊勢へ参らば朝熊を駆けよ、朝熊駆けねば片参り」と言われたようです。
 円空さんは、この道を通って朝熊山の金剛証寺へ向かったのでしょうか。それとも逆に、伊勢神宮から朝熊山の金剛証寺へ、そしてこの岳(朝熊山)道を通って志摩地方へ向かったのでしょうか。内宮と外宮の間に円空さんが四体残っている中山寺がありました。(これも後日UPします)
 円空さんの足跡が金剛証寺にはないのでしょうか。あっても不思議ではないなと、私は伊勢神宮と金剛証寺とこの上五知薬師堂と立神少林寺・立神薬師堂を結んで考えていました。
下の案内板には「↑薬師堂→岳(朝熊山)道」の文字

薬師三尊が見えない!

 お堂は最近入り口をアルミサッシにされたようで、しっかりカギがかかっていました。中を覗いたのですが、暗くて薬師三尊の前に立派なとびらがあって、何が何やら分からないのです。カメラでフラッシュ炊いて見ましたが、ハレーションをおこして何か仏さんがおられるのは分かる程度の写真しか撮れませんでした。お堂の外にアルミ製の案内道標が立っていました。
中央薬師如来109.5cm 日光・月光両菩薩89.5cm 
1674年に円空上人が志摩を来訪した折の造像と考えられる。
上五知 薬師堂 管理者 上五知農家組合

帰るしかないな…

 せっかく辿り着いたものの、何となく見たような気になって帰るしかないとあきらめて、もと来た道を下りました。農家組合の前を通ったけれどどなたもおられませんでした。そういえばさっきこの前で移動式マーケットトラックが止まって商売をしているのとスレスレで離合しました。お客はいないようでした。
 先ほどの集落の入り口のお堂へ戻ったら、マーケットの車が止まっていて、先ほどの四名のおばあさんがたちが買い物をしておられました。
 そしてそのおばあさんたちと私のやりとりです。
 「カギかかってたやろ」
 「はあ、残念ですけど拝めませんでした」
 「それを教えてあげようと思ったんやけど」
 「あんた京都からきたんか」
 「名古屋かと思ったけど。せっかく遠いとこから来たのになあ」
 と同情して下さって、
 「ここのかぎと薬師堂のカギはいっしょやから、開けてあげよう」という話になりました。
 「ありがとうございます」「申し訳ありません」「お手数かけます」
と言うわけで、本当にラッキーなことに私は薬師堂の中へ入って拝むことができました。 

荒削りな薬師三尊と対面

日光菩薩
薬師如来 月光菩薩
円空作 薬師三尊像
 円空仏は、ご本尊の薬師如来立像が御丈109.5cm。脇侍の日光月光菩薩像は一本の丸太を二つに割って作ったもので、御丈89.5cm。素材は何れも杉材と思料される。
 造像の年代は、円空上人が志摩に来られたのが、延宝2年(1674)の夏のことである。足跡は立神・片田にみられることから、本三尊像はこのときに造像されたものと考えられる。
 中の扉を開けるにはもう一つカギが必要でした。それはご主人が持っておられるとのことでした。私はこの上五知薬師堂の円空さんを拝ませていただくにはどうすればよいのか調べてみたのですが分かりませんでした。今回は偶然によい方に声をかけていただいたので拝ませてもらいました。何でも磯部町役場に連絡したら連絡が行ってカギを開けてもらえるのだそうです。
 それにしても私は幸運でした。ここの薬師さんと円空さんが呼んでくださったように思いました。
 12日が薬師さんの縁日だそうで、毎月集落の人が集まって拝んでおられるそうです。
 「立派な薬師さんですね」
「そうらしいですね。前に何か岐阜であった展覧会に出したら、うちのが立派やったって言ってましたから」
 私はこの集落の中で円空さんは幸せな毎日を送っておられるのだなと思いました。二十軒ほどの集落だと思いますが、その人たちの生活の中にしっかり組み込まれているようでした。
 きっと江戸時代にはこの辺りも病気で苦しむ人々が大勢おられて、その人たちの願いに答えて薬師三尊が彫られのでしょう。
 ます、薬師如来ですが、本尊なのですから普通は脇侍より貫禄があるように造られるものだと思います。ところがこの薬師如来は何となく頼りなげで、「薬師さん、体弱いのですか?」と声をかけたくなるような華奢な体型をしておられます。顔も何となく自信なさげです。鼻が横にデーンと広がっていて、どうみても男前ではありません。大きな薬壷を持っておられます。大勢の人を救わなければならないと色々薬を持っておられるのかも知れません。
 日光・月光両菩薩は月や太陽を持っていません。頭には十一面観音のような化仏があります。その化仏も顔が彫りかけで止めたような状態になっています。ボリュームのある太った両菩薩です。日光は逞しく精悍で厳しい顔つきをしています。月光の方は笑みを浮かべているように私には見えます。それにしても貫禄がありすぎて薬師さんより立派に見えます。
 
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