円空さんを訪ねる旅(5)

下呂温泉合掌村・円空館
(岐阜県下呂市市森2369 рO576ー25ー2239)

下呂温泉と合掌村

 最後までよく分からなかったし今もよく分からないのだが、この施設はどこが所有し運営しているのだろうか。お問い合わせ先に下呂市役所観光商工部の電話番号が入っているところを見ると、どうも公営のようだ。しかし、中で展開されている催しや施設の配置、内容は案外くだけているというか何というか。飛騨下呂地域の文化財を管理研究しながら公開していく博物館なのか、アミューズメント目的の商業施設なのか、どういう目的で作られたのかな…というのがよく分からないと思いながら見て回った。
 メインの建物は旧大戸家住宅で、重要文化財だそうだ(上の写真の一番大きな左の建物)。白川郷にもともとあった建物だそうであるが、ダム建設のために水没することになるので、ここへ移築されたようだ。
 下呂温泉は日本三名泉(草津・有馬・下呂)の一つである。江戸時代の儒学者林羅山(徳川家康から四代の将軍に仕えた御用学者)がそのように言ったらしい。そしてまた、ここは白鷺に姿を変えた薬師如来が、地震で湯が出なくなった温泉の湧き出す場所を教えたという伝説のある温泉である。確かに、今回入湯してみてそのお湯が素晴らしいことはよく分かった。頭を洗って、いくらお湯ですすいでも、ぬるぬるして石鹸分がとれていないように感じる。透明の単純泉だそうだが、いいお湯だ。下呂温泉は、湯名人『湯めぐり手形』(1200円)を発行していて、この手形でこの取組に賛同している旅館やホテルの大浴場に3回入れる。私は、「これはおもしろそう!」とさっそく購入した。そしてホテル旅館を品定めして行ってみた。しかし三月下旬はまだ肌寒く、夜の温泉巡りは一軒だけでしっぽまいて帰ってきた。時期を選ぶべきだった。明くる日に朝から入れるホテル捜してもう一軒入った。
 これは私の感想であるが、歴史のある温泉は、それを感じさせる何かがあるものだが、下呂にはそれが少ないように思った。例えば道後の道後温泉本館、城崎の七湯巡りなどである。せっかくの三名泉なのにな…何か物足りなさを感じた。
 偉そうなことは言えないが、温泉はいいけれど、周辺も含めて観光資源に乏しいなとも思った。温泉に行ったついでに見るものがないのだ。高山は古い町並みがあって集客力がありそうだが、ちょっと遠いかな。最近は温泉も美味しい料理と観光地付きでないと集客力に欠けることだろう。ここは料理では飛騨牛がウリのようだったのでいただいた。とても美味しかった。
 そこでこの温泉地の観光名所作りのために合掌村がつくられたのではないかと私は想像したのだが、当たっているだろうか。

合掌村『民芸の郷』の円空仏?

 重文旧大戸家を見学した。これは「民芸の郷」ゾーンにある。
 同じゾーンに「狛犬博物館」がある。ここの狛犬はある狛犬コレクターの方の協力で展示されているものらしく世界の狛犬日本の狛犬が集められているものであった。ここに円空の狛犬があったが、えつ?これ本物?と私は思った。確か後ろにある狛犬は岐阜県関市高賀神社所蔵の狛犬だと思う。高賀神社円空記念館というのがあるらしいから、本物ではないのではないかと私は思った。私は分からなくなった。どこの狛犬なのか説明なしで置いておくのはいかがなものだろう。レプリカならその旨書くべきではないかと思った。手前の吽像は古そうだった。確か説明には「円空作狛犬」とだけあったように思うのであるが違ったら申し訳ないが…。
 もう一カ所、円空かな?と思う仏が民俗資料館(旧岩崎家)にあった。1m余りの大きさの円空仏(?)が3体。これも何も説明がない。しかしながら、どうも表情が違うように私には思えた。本物なら、ぜひとも説明を書いておいてほしい。そして本物ならむき出しで触れる状態で置いてあるのはいかがなものかと思った。偽物ならこういう紛らわしい状態で置かないでほしいと思う。
 私は、何ともこの『民芸の郷』ゾーンの円空仏の扱いが雑だと思った。博物館としての機能を発揮して、円空仏を公開してほしい。

趣味が悪い円空館の建物

 何とも安っぽいと私は感じた。この緑色の館は、趣味が悪いと私は思う。これは、「ふるさとの杜」ゾーンにあって、『かえる神社』とか『龍神館』『はながさ館』『山のくらし館」といっしょの色で同じ建て方だ。八角形のサーカス小屋みたいな感じである。「かえる」と「円空さん」を同列に置いているから腹が立つのだろうか。かえるに失礼かな。今さらどうにもならないのかも知れないが、円空館だけ独立させて「円空ゾーン」を作ってもらえないだろうか。
 中にある円空仏は大変素晴らしい。そして、展示の仕方も工夫が見られていい。例えば、円空仏の中に背銘のある貴重なものはそれも見られるように配慮されていたし、主だったものはどの方向からも見られるようにしてあった。だから、この円空館の展示については何の文句もないし、大変素晴らしいと思う。見やすさの点では「美並ふるさと館」「千光寺円空寺宝館」より上だと思うし押しつけがましさもない。内容が良いだけに、この建物をもう少し何とか円空の仏像があっても不思議でないようなものにしていただけないものかと思うのである。

円空館内部

 この円空館内の展示内容には大満足で感謝である。下呂市にある個人蔵の円空仏が展示してあり、小川神明神社そして少々野住吉神社の神像を見ることができた。非公開の社寺や個人宅の円空仏を拝見させていただくことは、私のような何のコネも肩書きもないものには不可能に近いことである。そして『撮影禁止』の表示がなく自由に撮影できるのがうれしい。

青面金剛神像1・2

 個人蔵の二体の青面金剛神像である。同じ青面金剛神であるが、像容は異なる。左の方は三面の顔を持つ。足の辺りに見える三つのものは足かと思ったが、どうも三猿(みざる・いわざる・きかざる)らしい。荒ぶる神でありながら穏やかさを感じるのに対し、右の方は2対の手を背後で窮屈そうにして、一面の顔は怒りの表情を露わにしている。左の像には親しみを、右の像には恐ろしさを覚える。
 なお、これは「しょうめんこんごうしん」と読むらしい。この左の像には裏面に背銘があり『元禄四年(1691)』とある。下呂付近に遺る円空仏はこの頃に造像されたものらしい。

青面金剛神像3

これはまた、同じ青面金剛神でありながらなんと穏やかな表情であろうか。怒髪であることがオシャレに見えてしまう。

小川神明神社の神像(下呂市小川)

 大体神像というのはおもしろくない、と私は思っている。昔のお公家さんのような格好をしている。日本の神様はそのお姿がはっきりしないからいいのだ。太陽であったり月であったり水であったり土であったり、山であったり川であったり。自然そのもの万物を崇拝するのであるから人間のように表現しようとするところに無理があると思う。円空の神仏混合の神像も仏教の影響の方が大きいから造形的に何とかなっているのだと思う。生涯にわたって白川信仰とつながりのあった円空が裏面に『白川妙?大権現』と書いている神像である。読めない字であるが「月」(にくづき)に「皇」と書いてあるように私は思うのだが、そんな字ないのでは?(*「円空展」カタログの長谷川公茂の文章から「白山妙理大権現」と読むということが分かった。)
神像白山妙理大権現アップ 白山妙理大権現全体 白山妙理大権現裏面

少々野住吉神社の稲荷大明神(下呂市少々野)

 小川神明神社と少々野住吉神社の神像が多く展示されていた。富士浅間大権現、熊野大権現、伊勢大神宮、鹿島大権現、宇賀神、八幡大菩薩などなどである。
 この中で動物を表していると思われる像は、初めて見ると何とも奇妙な印象を持つ。善女竜神も龍を表現しているが、龍そのものではない。しかし宇賀神はヘビであり、稲荷大明神は狐そのものであり、鹿島権現は鹿である。私は円空の鹿島権現はマヌケ面に見えてしまう。狐顔の稲荷大明神もお稲荷さんをバカにしてるのかと思ってしまう。伏見稲荷近くに住んでいるから知らない間に贔屓にしているのだろうか。稲荷大明神のお使いが狐なのであって狐そのものを稲荷にしてどうするの!と理屈を言いたくなってしまう。
 でも、この稲荷大明神はいい。小像であるが、哲学的な思索にふけっているようでいい。マヌケ面していない。この小像、背中を丸くしてある。きっと木目の具合でそのようにしたのだと思うが、その姿勢も顔を左に傾けているのもなかなかいい。お稲荷さんが賢そうに見えるので私は納得した。

円空仏の表情研究

 その他、私が立ち止まって拝ませていただいた円空さんたちである。どれも彫り方に共通点がある。眉と目を線彫りする。鼻はわずかに真ん中を高くしてある。鼻の下をやや深く彫り、口は上唇と下唇をはっきりと彫り込む。眉毛とあごの真ん中に鼻を持ってくる。鼻と眉毛の真ん中に目がある。鼻とあごの真ん中に口。分かったからといって彫れるわけではないけれど。
馬頭観音 地蔵菩薩像 如来像
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