円空さんを訪ねる旅(11)

円空美術館
(岐阜市大宮町2−17рO582−66−4556)

 名前もどこにあるのかも分からないまま岐阜市へやってきた。とにかく岐阜市に円空さんの作品館があるようだというどこで読んだのかも分からないような記憶を頼りに羽島から名鉄に乗った。
 JR駅構内の本屋さんで岐阜市ガイド本を捜せば何とかなるだろうとたかをくくっていたが、書いてない。
 誰に聞いたらいいのかも分からないまま、半分あきらめて岐阜公園にある岐阜市歴史博物館へ行くことにした。バスに乗って15分ほどでついた。博物館受付で「円空仏はありますか?」と尋ねると、「ありません」とのこと。そう言えば、岐阜市内に円空仏があるというのは聞いたことがない。円空さんは岐阜市内へは足を運ばなかったのだろうか。ついでに、「岐阜市内で円空館とか資料館とかいうものはありませんか?」と聞いたら、「この前の道路を左へ行ったらありますけど、今日開館されていますかね?」という返事。当たらずとも遠からずの場所まで来ていたようだ。常設展もそこそこに円空美術館へ向かった。
 円空美術館はすぐ見つかった。土蔵を利用した建物であった。
 入口にインターフォンを押すように書いてあった。押したら、「すぐいきます」と言う返事。お客さんがあれば開けるという美術館である。毎週水・土・日曜日10時から4時まで開館。料金は高校生以上500円である。
 鍵が開いて中へ入った。まず目に飛び込んできたのが、正面にある木の根っこを彫ったような大黒天、それに不動三尊。骨董商を営まれているご主人が集められた円空さんを、この土蔵を手に入れられて拝観できるようにされたそうだ。「パンフレットには四十体近くあります」と書いてあるが、館内にある円空さんはもっとあったようだ。「写真を撮らせてもらえますか?」とダメもとで聞いたら、「少しなら」と言っていただいた。とにかくゆっくり全部見せてもらおうと一体一体ゆっくり見せてもらった。バックに紹介テープが流れている。
 この円空さんの中には「三十数回足を運んでやっと譲り受けたものもある」と書いてあったので、「これ、みんな買われたのですか?」と聞いた。「わたしとこは骨董商ですから売り買いさせてもらっています。最近は買うことの方が多いですけど」という返事であった。
 そうか…円空さんを売り買いする世界がやっぱりあったのだなと思った。売る人買う人があれば盗んででも手に入れようかという不心得ものがいてもおかしくない。また、先祖伝来の円空さんを手放そうかと思う人が出てきても当然である。
 そういえば、ここにある円空さんは、自宅で大切に守ってこられたものが多いようだ。三段になっている一段目や二段目の10cm余りの小仏はそのようだ。
 私が窮屈そうに写真を撮っていたら、「前のガラス戸は開きますから、開けてもらってもいいですよ」と声をかけてくださった。ありがたいことである。さっそく開けて,,撮らせてもらうことにした。
 黒い色しているものと白い木の色のままのものがある。黒い色は仏壇などで線香をたいたためであり、白いものは神殿などで奥深く守られていたためらしい。この諸仏は元々どこにあったものなのかの説明がない。しかし高賀神社の小さい神像だけはその旨書かれていた。あとは仏の名前と像高が書かれているだけである。
 

(1)大黒天と不動三尊

大黒天(100cm) 不動座像と制多迦・矜羯羅童子
 松の根に彫られた大黒天である。2005年京都大丸ミュージアムで開催された「円空展」で見た愛知県江南市音楽堂にある「荒神像」も根っこを利用した神であった。その存在感はすざまじく二等身の荒神は他を圧していたのを記憶している。同じく根っこ像もう一体、三重県志摩市少林寺の護法神像は写真でしか見たことがないが、こわい。それに比べて、同じ根でもこの大黒はなんとも温和なお顔をしておられる。こういうにこやかで穏やかな根っ子像を円空が造ったのかと思った。三重県志摩には個人蔵で大黒天があり、木塊に目鼻だけの像であるらしい。関係あるだろうか。この像はもともとどこにあったものか。
 その右側にあった不動明王座像と二童子像は福岡県の方が持っておられたと書いてあった。九州へ円空が行ったことがあるというのは聞いたことがないが…。この童子が手を挙げているポーズは見たことがある。栃木県日光市清滝寺のものと同じだ。延宝7年前後の造像のように私は思うのだがどうだろう。

(2)普賢菩薩

 私は、この普賢菩薩は名作だと思う。高山市郷土資料館にある思惟菩薩像によく似ている。この台座をよく見ると象が彫られている。こういう丁寧な彫りの像は寛文期のものだと思うのだがどうだろう。それにしてもこの円空美術館の円空仏のことを書いたものを見たことがない。どこにあったものか分からないから?コレクター蔵だから?この持ち主の骨董商の方は円空学会に所属されていると奥さんはおっしゃていた。円空研究者の方々がご存知ないはずないのになあと思った。
 家へ帰ってからこの円空美術館でいただいた「千光寺の円空仏」(小島梯次・2000年「行動と文化」23号)を読んだ。その中に、こんな文脈の中で取り上げられていた。
 千光寺の両面宿儺の裏面に梵字と「功徳天十五童子」と墨書されているそうである。これは、弁財天とその眷属である十五童子のことだそうだ。そして書かれている梵字も両面宿儺とは関係なく書かれているという。
 こういう背銘の例がもう一例あるということで、この円空美術館のこの像と思われる像のことが取り上げられているのだ。このように書かれている。「岐阜市・円空美術館に象上に座す珍しい像が蔵されている。この像の背面向かって右側面には「功徳天」左側に「十五大童子」という墨書があり、『大』という字が加わっている以外は両面宿儺と同じである」梵字もほぼ同じだそうである。同じ文字・梵字が書かれていることの意味を「十五童子を含めた弁財天の功徳を付与せしめるために書かれたといえる。円空が一像の中に多機能を持たせることは多くの像に見られるところである」と書かれていた。

(3)両面仏

 この像の裏に顔があることを鏡を置いて見せておられた。「ふーんこんな像も造っていたのか円空さんは」と、思いながら見た。
 家へ帰ってから「歓喜する円空」(梅原猛)に確か両面仏のことがあったなあと思い出した。P.266に三重県菰野明福寺にある円空さんの両面仏(表裏に阿弥陀と薬師が彫られており、もともと伊勢の神宮寺にあったもので廃仏毀釈の時に明福寺へ移された)のことを書いておられる。「円空には他にこのように両面に仏を彫った像はない」と断じておられる。となると、この両面仏はどうなるのだろう?
 他にもいくつも心に残る円空さんがおられましたが、ぜひご自分の目でお確かめを。
 帰ってきた今、ここにおられる円空さんたちは売り買いの対象になるのだろうかと気になった。そしてそれはいったいおいくらぐらいなのかと下世話なことが気になった。写真を撮らせていただいたことに感謝して、合掌。
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