円空さんを訪ねる旅(19)

大垣報恩寺
(岐阜県大垣市綾野1丁目рO584−91−6955)

 京都から琵琶湖湖岸道路を走り、彦根からは国道8号へ出て米原へ。米原から21号(旧中仙道)を東へ。柏原、垂井、今須など旧中山道の宿場町の名前に後ろ髪引かれたり、不破の関跡や関ヶ原古戦場跡などに「おつ!」と思ったりしながら、大垣に到着しました。京都からビッグスクーターで約3時間。
 大垣の地理は不案内なのですが、旧国道21号線「静里」という交差点を右に折れました。たぶん南へ向かったのだと思います。
 新幹線を越えるとすぐの交差点を右折してすぐを左折すると報恩寺のかなり広い駐車場に着きました。近鉄バス停「綾野」付近です。

(1)大垣市教育委員会の説明板

  大垣市教育委員会が作った円空さんについての説明板が二つありました。両方とも書いておきます。 
岐阜県指定重要文化財
木像円空作仏像
(薬師三尊並びに十二神将)
 円空上人は江戸時代の僧で、日本全国を行脚遍歴し、その足跡には疾病平癒などの祈願のために鉈彫りされた仏像が残されている。
 この寺には上段中央に薬師如来、その左右に日光・月光菩薩の薬師三尊と下段に12支の守護神である十二神将があるが、計15体が完全に揃い残されているのは全国的に見て大変めずらしいことである。
 薬師三尊は円空独特の微笑を浮かべ、十二神将の各体は顎に髭を蓄え、額などには12支の顔が彫られ、独自の作風が伝わってくる。
大垣市教育委員会
 円空上人は、江戸時代初期の僧で、現在の岐阜県羽島市の農家に生まれ、日本各地を行脚遍歴し、その旧跡には祈願のために鉈で彫られた仏像が残されています。
 この寺には、中央に薬師如来、その左右に日光、月光菩薩の薬師三尊とその周囲に十二支の守り神である十二神将の計十五体の仏像があります。
 十五体が完全にそろっているのは、全国的にみても大変めずらしいものです。
 薬師三尊は、円空物独特の微笑を浮かべ、また十二神将の各体の額や胸には、十二支の干支が彫られ、顎には髭がたくわえ、円空上人独自の作風が伝わってきます。
 昭和三十九年3月に県の重要文化財に指定されました。
大垣市教育委員会
 どちらが先に設置されたのか分かりませんが内容が少し違います。
 以前は十五体を上下二段の違い棚に祀っておられたようです。上段に薬師三尊、下段に十二神将だったようです。今は、収蔵庫内に三面のガラスケースが設けらられ、正面に薬師三尊が、そして左右の面に6体ずつ十二神将が配されています。現在の収蔵庫は住職が色々な収蔵庫を見て回られて造られたそうです。鉄筋コンクリートの内側に断熱材を入れ、さらに土壁をぬったもので三重構造になっています。これで湿気結露と寒さ暑さそして、泥棒から円空さんを護ることになります。「カギがいくつもあって」とおしゃってました。

(2)薬師三尊

ご覧の通り、薬師さんはちょっと貫禄たっぷりに、そして日光・月光菩薩は大変スリムに作られています。
 では近づいてUPでその表情を見てみましょう。
日光菩薩(54.3cm) 薬師如来(55.3cm) 月光菩薩(54.2cm)
何とも穏やかで暖かい優しい表情をして微笑んでおられます。薬師如来は薬壺をもっておられます。日光菩薩は衣に日輪が、月光菩薩には三日月が彫られています。頭の化仏も違います。
 この三体の像の底面の年輪を調べると重なるそうです。桧で彫られています。詳しく調べると隣の垂井町の材だということも判明したとか。
 余談ですが、日光菩薩は「じっこうぼさつ」月光菩薩は「がっこうぼさつ」と発音すると思うのですが、ワープロで打つても出ません。

(3)十二神将

■十二神将(左側)(子丑寅卯辰巳)

 巳像を除いて何れも48〜50cm程の高さです。巳像が持っているのは矛だそうです。丑と寅の手には金剛杵があります。額や手、胸辺りに十二支が彫り込まれています。この写真では分かりにくいのですが、岩座や裳裾の辺り、像の右下に文字が書かれていました。例えば子像なら、「左一子」という風に墨書されています。円空さんは並べ方を間違われては困るというので配慮をしたようです。

■十二神将(右側))(午羊申酉戌亥)

 こちらが後半の十二支になります。後ろの壁にもたれかけるように立てられています。不安定なのだなと思いました。住職の話では、薬師三尊も十二神将も軽いそうです。よく見ると虫食いの穴が見られる像がほとんどです。乾燥し虫に食われて軽くなっているのです。薬師三尊の底面は突起と穴で下の台座とつなげて安定して立つようになっているそうですが、十二神将はそういうものがないために、後ろにもたれかけるようになっているのでしょう。

(4)十二神将の表情

 報恩寺の十二神将は憤怒像です。薬師三尊を仏敵から護るのが役目ですから威嚇の表情をするのが当然と言えば当然なのですが、円空さんの十二神将の中にはそうでもないものもありますから、この十二神将の怒りの表情は特筆に値します。そして十二支の動物が頭髪(怒髪)や手の辺りに見えます。中にはその動物には見えないものもあります。目を大きく開いているものも細めているものもあります。鼻はあぐらをかいたように大きいものはユーモラスです。私は羊、申、戌の目が恐いと思います。この二像には出くわしたくないと思いました。表情としては巳、亥の表情に深みを感じます。矛を持っている関係からか、造形的にもおもしろいと感じました。人間くさい表情をしているものは、どこか土着性を感じますし、浮世離れした恐さを感じるものもあります。
 あご髭らしいものが見られます。奈良や京都の四天王などの天部像にはそういうものもありますから踏襲しているのでしょう。髭の似合う顔とそうでもないものが混在しているように思います。顔全面に縦に入っている線は近づいて見ると異様に見えます。色々な仕掛けが施されているようです。
 一番外側に配置される巳と亥は矛を持っています。午と羊は宝珠を持ち、申、戌は金剛杵を手にしています。丑と辰は柄杓のようなものを手にしています。衣装も波形、直線、同心円などの線で少しずつ変化をつけています。
子像(手からネズミがいます) 丑像(頭に丑がいます) 寅像(頭に虎がいます)
卯像(手に兎がいます 辰像(手に龍がいます) 巳像(頭に蛇がいます)
午像(頭に馬がいます) 羊像(頭に羊がいます) 申像(頭に猿がいます)
酉像(頭に鶏がいます) 戌像(頭に犬がいます) 亥像(頭に猪がいます)

(5)報恩寺住職との話

 円空さんは、報恩寺の新福院薬師堂という収蔵庫におられるのですが、ここに入ってまず手を合わしていたら、住職が
「お話しましょうか」
とおっしゃいました。
「ぜひお願いします」
と答えました。
 それから、おおよそ一時間半たくさんお話を聞きました。
 その中で特に私が興味をもったことを私の感想とともに書いておこうと思います。
■なぜ報恩寺に円空さんが…
 報恩寺のある場所は、羽島の中観音堂と同じ輪中なのだそうです。堤防に立つと、川より集落の方が低いことがよく分かるのだそうです。私は円空さんが羽島生まれかどうかの判断はできませんが、輪中のくらしについての理解は十分しておられたと思います。洪水が起これば命を失うことも、疫病が蔓延することも分かった上で、ここ報恩寺に薬師三尊と十二神将を彫り置いたのであろうということでした。
 この寺は曹洞宗です。円空さんの時代から変わらないそうです。曹洞宗の寺が薬師如来を大切にすると思えません。しかし、とにかく助けてほしいという人々の願いと円空さんの思いがいっしょになってここにこの仏さんたちがおられるのでしょう。
■薬師三尊と十二神将の拝し方
 「円空さんの十二神将は不足しているところが多いけれど、ここは完全に残っています」
 「なぜ、一体二体と十二神将が不足するのか、分かりますか?それもとんでもないところから発見されることがあります」
 「さあ、分かりません」
 「それは、拝み方に関係があります。まず、自分の干支の神像を拝みます。次に昼間なら日光菩薩を、夜間なら月光菩薩を拝みます。最後に薬師如来の薬壺を触って、自分の病が治癒することをお願いするのです。」
「はあ、そうですか」
「でもね、こういうお寺へそういうお願いをする人って、深刻じゃないでしょう?元気でここまで歩いてこれるのですから」
「なるほど、そりゃそうですね」
「そういう家で寝ている人のために、十二神将の中からその人の干支のものを借りて帰るのです。そしてその寝ている人に触らせて拝ませるのです。もし御利益があって治ったりしたら、又貸しが起こって、そのうちにどこで借りたのかも分からなくなって、とんでもない遠いところで発見されたりすることになるのです」
 この話、私感動いたしました。
■報恩寺へ行く人は…
 このお寺、突然訪問されても断られます。
「だって、そうでしょう。だれだってどんな都合があるか分からないのです。急に来て、見せてくれは常識がなさ過ぎる。ここはお寺ですから法事や葬儀もある。都合を聞くのが当たり前です。私は予約した人は断りません。でも急に来た人は断ります。中には怒り出す人もいて、『見せていらん』」と帰る人もいます」
 私は、怒って帰る人の気持ちも分かります。やっと時間をやりくりして来たのにと私もきっと思うだろうと思いました。しかし、住職がおっしゃるのが常識でしょうね。私は朝出発前に予約してお昼過ぎに訪問しました。先に連絡しておけば快く拝観させていただけますから、必ず予約入れてください。
■円空さんはお金をいただかなかった
 「円空さんは、お金のために仏像を彫ったりしなかった。拝観料とったら円空さんに叱られると思いますから拝観料はいただきません。円空さんを金儲けに使ったら円空さんから叱られます。円空さんはお金を持たずに旅を続けた。その心から学ぶことが大事です」
■報恩寺の円空さんは六億円!?
 「今までに三回、円空さんを買いに来た人がいました」
「それは、骨董商ですか」
「そうです」
「でも、報恩寺の薬師三尊と十二神将はあまりにも有名なのに、買えると本当に思って来られるのですか?」
「買いに来ますよ。その中で一番高い値をつけたのはいくらだと思いますか?」
「さあ、予想がつきません」
「六億円です」
「へえ〜、そうですか」
「全部揃っている分、高いと言ってました」
 六億円…私のようなお金のないものにはとてつもない金額です。しかし円空さんの価値として高いのか安いのか私には分かりません。しかし買いに来た骨董商の方は、それで十分投資価値があると判断されてのことでしょうからそれでも採算がとれるのでしょう。

 こういう話を円空さんが聞いたらびっくりでしょうね。
2008・9・24(水)撮影
2008・10・9(木)作成
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