円空さんを訪ねる旅(56)

保井戸薬師堂
(下呂市保井戸)

 
 栄中日文化センター紀行講座「下呂市保井戸・金山町の円空仏に会いに行く旅」に参加してきました。ボールペンを忘れていき、せっかくの小島梯次講師のレクチャーをメモ出来ずうろ覚えで書きますので、いい加減なことになるかもしれません。もし間違っておりましたらお知らせ下さい。今回拝観させていただいた円空仏は地区管理のものや個人蔵のお像で非公開の円空さん。特別のご配慮で実現したとかで楽しみに見せていただきました。
 保井戸というところがどういう場所なのか全く分からなかったのですが、帰って地図で調べますと飛騨川とJR高山本線が並行しているところを走る益田街道(41号)沿いにあり、下呂駅と金山駅の中間あたりの位置のようです。
屏風岩と益田街道(41号)  JR高山線鉄橋と飛騨川 

(1)薬師三尊

 円空が飛騨地方に残している仏は円空後期元禄期のものが多く、円空が飛騨へ入ったのはその頃であろうと言われています。この三尊は背銘がありませんが、元禄期のもののようです。薬師如来も日光月光(どちらがどちらなのかは不明)両脇寺も顔の造作は簡単な筋で表しています。本尊薬師如来は膝上で薬壺を持っています。三体とも相当角をぶつけたりすり減ったりしているようです。とりわけ薬師如来の頭部生え際など傷んでいます。「外へ持って出て遊んだ」という伝承が残っているそうです。
     
脇侍菩薩1(42.6cm)  薬師如来(44.3cm)   脇侍菩薩2(43.4cm)

(2)神像
(24.1cm)

 頭部に最勝を表す「ウ」が書かれている。大日如来の三種真言である。
 ずいぶんくっきり残っているなあと思う。表側は薄墨か何かで色をつけているようだ。それが背面に少しはみ出している。
 私はこの像が神像なのか観音なのか迷った。頭部が観音の渦巻き型なのか烏帽子なのか判断がつきかねたからである。メモをしていなかったため最初小島先生が「観音とおっしゃったと思うが、神像ではないかと思う」と書いてしまった。すぐに前田さんから「小島先生は神像だとおっしゃっていた」と訂正をいただいた。そして小島先生からも下記のような丁寧な解説をいただいたので、ここに記し、お詫びします。
 「頭部が観音の火焔状髪形と神像の烏帽子とよく似た形状で、どちらか判別がつかない場合があります。ただ神像は蓮座が彫られている像はなく、観音は原則蓮座があります。蓮座がない仏像は、神像として彫られた像と私は区別しています。 本像は、蓮座はなく、円空が彫る典型的な神像の台座です。間違いなく「神像」と断定できると思います。」
 この像は薬師堂にずっといっしょにあったのか、どこかから持ち込まれたのか、背面があまり美しすぎて、それにお顔も薬師さんに比べると摩滅がひどくないので他の祠に祀られていたのかなと勝手な想像をした

(3)宇賀神像
(34.4cm)

 円空のこんな大きな宇賀神像は初めて見た。
 「円空 心のありか」(2008・惜水社・池田勇次他著)の「円空と庶民信仰」(池田勇次論文)に円空作の宇賀神一覧表がある。宇賀神単体は全国に18体だそうだ。その中で30cmを超えるのは4体であり、その中でもこの保井戸の宇賀神は二番目に大きい。人面蛇身の宇賀神は16cm以下のものが大半である。
 先の池田氏は宇賀神をこのように説明しておられる。「財宝の神として仏教の弁財天と混合し種々の偽経(後世に偽作した教典)を生じた。その姿は、首は老翁(仏果の法門を表す)で、身体は白蛇の曲がりくねった形(白浄の菩提心の意味を表す)として、七宝を降らして衆生の希望を満たすものとされる『密教辞典』。そのため福徳の神として広く信仰されるようになった」とある。
 さて円空の彫る宇賀神の像容であるが、「頭部は老翁で柔和な顔であり、眉・目・口などを簡潔にほぼ一直線に彫り、顎髭が長く伸び、身体は蛇身がほとんどである」「蛇の体は三重に積み重なった形が多く、五重のものもある。体側は大きな切れ込みが入っていて、曲がりくねった蛇体を端的に表している」「背面は少し前屈みで、ほとんどに大日三種真言が書かれていて、円空の密教的宇宙観がみられる。またそのシルエットを見る時、それは男根をかたどっており、生殖のシンボルの意味を込めていることが推測される」「天川村の大弁財天社蔵の宇賀神の他は、愛知県と岐阜県が多く、特に飛騨に多いことが特徴的である」と書かれていた。
 残念ながら背面写真が撮れなかったのであるが、同行者の方がお送り下さった写真で大日三種真言が見られた。飛騨に入った円空は求めに応じて、生殖の象徴であり、福徳の神である宇賀神を彫り残したのであろうと想像しながらこの大きな宇賀神を拝見した。 
 
 私がこの宇賀神に対して抱いた感想は以上であったのであるが、講師の小島先生から以下のようなご指摘を受けた。宇賀神に対する小島先生の見識を披露されており、参考になった。
宇賀神について
 宇賀神は、全部で21体あります。池田勇次氏があげられている他に下記の3体があります。>
@ 下呂市金山町中津原・個人 13.5p(今回拝観した像です・「円空さんを訪ねる旅57金山町の円空仏」
A 高山市天満町・個人 13.0p
B岡崎市東蔵前・個人 25.6p(京都 美術館「えき」で開催した『円空・木喰』展図録64頁所収)
 池田氏があげられている宇賀神の功徳は、偽経『最勝護国宇賀耶頓得如意寶珠陀羅尼經』に基づく ものと思いますが、本経は中世に作られたものです。 宇賀神は、すでにその信仰は平安時代からあったとされており((『天部の仏像 図典』錦織亨介 東京美術 昭58)、穀物の神として民間信仰の中で醸成されてきた像だと私は考えております。勿論考え方は、人それぞれであり、他の考え方を否定するつもりはありませんが、私の捉え方も述べさせていただきました。
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