円空さんを訪ねる旅(63)

久々野の円空仏
(岐阜県高山市久々野町)

 久々野町は現在高山市である。高山と下呂の間にある。小坂町より高山に近い。JR高山本線、益田街道(国道41号)、飛騨川で繋がっている。久々野には「無数河」「長淀」「渚」「橋場」など、川に関係した地名が多い。久々野というのも「水くぐる野」かなと勝手に想像した。晩年飛騨での消息が知られる円空さんは、久々野でもその痕跡を残している。
 久々野町の円空仏は、4箇所8体あるそうだ。いずれも神社にある。姿形は、観音が5体、薬師像が1体、僧形像が1体、菩薩像が1体である。しかし、これらは神像として納められた。円空は如来、菩薩には蓮座をつけるが、久々野の如来像、菩薩像にはそれがない。

薬師座像・僧形立像・菩薩立像
(長淀熊野神社像・現久々野町歴史民俗資料館)

僧形立像(35.5cm) 薬師座像(40.4cm) 菩薩立像(40.2cm)
 薬師座像は、珍しいもので、蓮座がない。現存する円空作薬師如来像の中で蓮座のないのはこれだけである。衣で隠した手の上に薬壺を持っている。鼻を高く彫らず口との境を彫ることであらわすのは三体に共通している。背銘であるが頭上には最勝を表す「ウ」が書かれている。三行の真言が見られる。地蔵や弥勒、釈迦を表す種字が見られるものの、薬師を表す「バイ」がないらしい。私は円空の背銘梵字には力強いものとなよなよとしているものがあると思うのだが、これは細く弱々しいと思う。
 左の僧形立像、胸に大きな節がある。1つではなくいくつか見える。その影響か木目が不思議な模様になり体全体を覆っている。剃髪像は9割が地蔵菩薩なのだそうで、これも地蔵菩薩なのではないかと思われる。正面から見ると、視線を左45度ほど傾けて斜めを見ている。やや太り気味のがっちりした僧形立像である。私は耳の彫り方がおもしろいと思った。背銘は大日報身真言だそうだ。この字も弱々しい。
 右の菩薩像は一体何菩薩なのか見当がつかない。これもややメタボ気味。背銘はよく読み取れない。一行だけ書かれているようだ。拱手(衣の中に両手を隠す)は、神像にはよくあるもので、円空の場合、神像に限らず仏像にも敷衍されているというのが山下立氏の説である。なるほどと感心した。(山下立「異形の木彫りを辿る旅ー円空作品から鉈彫・荒彫りへ、そして神像彫刻へー」〈『2014年造形衝動の一万年展』カタログ論文より。〉
 この三体、三尊像ではなさそうである。薬師如来には、日光月光菩薩、円空がそれを崩すと思われない。左が善財童子だとすると観音像と善女龍王が考えられるが、薬師如来は不自然である。
 明治時代の廃仏毀釈で薬師堂、さらに公民館へ、そして現在の久々野歴史民俗資料館へ移されたと言う歴史があるらしい。
 2013年に東京国立博物館で開催された「飛騨の円空展」に出品されていた。浅見龍介氏の解説によると背銘の梵字は円空筆か不明とあった。又、薬師と菩薩は底が鋸引きだが、僧形立像は平鑿で整えてあり中央に鉄釘が打たれていると書いてある。又、僧形立像は「白山十禅師という名称で掲載する本もある」が「根拠は不明」らしい。

観音立像三体
(木賊洞山神神社像・現久々野町歴史民俗資料館)

観音立像(39.0cm) 観音立像(53.0cm) 観音立像(38.5cm)
 木賊洞と書いて「とくさぼら」と読むようだ。中央の観音様が他の二体より15cmほど大きい。三体並べることを意識して彫られた可能性もある。磐座(?)部分に腐食が見られ、立つことが困難な状態になっている。
 印象からすると、中央の像はシューッとしていてスマートである。右はややふくよかである。左はおだやかな印象を受ける。
 三体とも拱手であり、手から下は三面か四面で表しており、一番省略した形式と言える。頭部は宝冠でも被っているようである。
 背面の梵字であるが、左右の像には頭部に最勝を表す「ウ」そして観音を表す「サ」があり後は大日報身真言がある。
 中央の像だけ「ウ」「サ」に続いて大日応身真言が書かれ、左右に不動や吉祥、毘沙門などの梵字がある。中央が本地仏観音である可能性もある。円空の背銘梵字は元禄になると大日三種真言を書くので、これは貞享ではなかろうかということであった。
 円空が久々野を何回訪れ錫を留めたのか不明だが、一回きりで両神社で造像したのであれば、貞享の頃のということになろうか。
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