円空さんを訪ねる旅(69)
慈眼寺の不動明王と毘沙門天
(岐阜県羽島郡笠松町・笠松中央公民館寄託)

 2016年8月19日(金)ガンダーラの会現地学習会に参加してきました。午後からでしたので新幹線を使わずJRの新快速や名鉄を使って乗り継いで行くことにしました。京都を10時過ぎに出発したら12時40分には名鉄笠松駅に着きました。
 笠松駅は名鉄特急で岐阜駅の次でした。笠松町は羽島郡で、この二体の円空仏のある慈眼寺という寺は、円空の生誕地として名が上がっている竹鼻とは目と鼻の先だということでした。笠松町に円空仏は3体だそうで、そのうち二体が慈眼寺にあるそうです。
 慈眼寺は無住の寺だそうで、地域の方々の手で守っておられる寺だとか。総代さんがお話しをしてくださいました。円空作のこの二体は危ないというので、中央公民館に預けておられたので残りましたが、他の仏像などは盗まれたとおっしゃっていました。罰当たりな話です。この二体は今秋(9/23~11/20)岐阜県博物館で開催される「東海地方の円空仏」展に出品されるそうです。

(1)倶利伽羅不動明王像
(61.2cm)

 円空の倶利伽羅不動明王の作例は、他にも2例(愛知県岡崎市と岐阜県白山町)あります。
 この像で、まず気になったのが口の中の朱色でした。これは毘沙門像にもあります。最初から円空が朱色を付けたのか後世につけられたものか分かりませんが、この二体に限られたことだということでした。
 私は黒目を入れていることも気になりました。美並にある初期像は確かに目がありますが後年は少ないように思います。小島先生は伊吹山太平観音堂十一面観音背銘に「七日開眼」とあることを例に挙げて目が書き入れる例もあるとおっしゃいました。この黒目も円空が入れたのかどうかと思いました。
 総代の方は、この二像は「本堂の裏の『小汚い台』の上に置いてあった」とおっしゃっていました。円空仏の評価が急変する前は、みなその程度の扱いだったことでしょう。
 腰から下は、二つの像ともに渦巻き状の巴紋のようなものです。これは、円空が北海道から戻って以降現れたもので、鉈薬師の十二神将が時に有名です。しかし晩年の飛騨高賀神社の狛犬などにも見られるもので、円空は好んで使っていたものと思われます。アイヌの文様の影響という意見もあります。
 磐座の上に素足で立つこの不動明王像、正対していますが、顔はやや左を向き、足も右足が前に出ていて、龍が正面を向いているようです。右手に剣を持ちそれに龍が絡み、左手は羂索を手にしています。牙が上下に出ていますが目は普通です。
 
 背銘です。私はほとんど読めませんので、小島先生の読みと解釈を引用させていただきます。
 三行に別れて書かれています。頭部と磐座部分がこの写真ではありません。向かって右から

 ベイシャラマンダヤ(毘沙門天) カーンマーン(不動明王) シリー(吉祥)
 イ(文首記号) バン(金剛界大日如来) ウン(何閦如来) タラーク(宝生如来) キリーク(阿弥陀如来) アク(不空成就如来) ここまでは金剛界五仏種子 ボローン(一切結合)
 ウン(護法) ウ(最勝の) カ(地蔵菩薩) サ(観音菩薩) ダ(文末)
 

 小島先生のまとめです。 
①円空が、この形式で背銘を書くのは、延宝初年あたりから遅くとも延宝7年までである。
②最勝を表すウが、この像では腰のあたりに書かれているが、栃尾観音堂では下に書かれている。そして晩年の作では、一番上頭部に書かれている。ウの位置がなぜここにあるのか疑問。
③像の形式から言うと、延宝初年あたりか、あるいはさらに遡るかも知れない。
 延宝初年かその前と言いますと、寛文11年~13年ぐらいでしょうか。延宝2年に志摩片田、立神で大般若経の修復をするという大転機の前に当たります。
 寛文11年美濃加茂市下廿屋観音堂で馬頭観音を残しています。同年法隆寺で「法相中衆血脈佛子」を受けています。
 寛文12年郡上市や美並町で造像しています。
 この頃第1回目奈良県天川村に入り、大峯山で修行したようです。
 寛文13年奈良県天川村栃尾観音堂で諸像を造像しています。
 
倶利伽羅というのは、黒色の竜の意味。その竜が燃えさかる火焔に包まれながら岩上の利剣に巻き付き、剣を呑み込もうかという形状を不動明王の変化身の一つにしたらしい。倶利伽羅不動明王はそれを本体としたもの。不動信仰と共にこの図柄は広く歓迎され、彫金細工や刀身彫刻などに多く施された。その図柄を入れ墨に彫ったものは「倶利伽羅紋紋」という。博打打ち、火消しなどが好んで彫った。天保年間(1830~44)に盛行をみており、はじめ腕だけが多かったが、のち体いっぱいにも彫った。(小島梯次講師 資料より) 

(2)毘沙門天像
(61.2cm)

 
 
 三重塔を拱手して胸前で持つ毘沙門天像。兜を被り衣服下部には、不動同様渦巻き紋が施されています。毘沙門さんは磐座の上で沓を履いておられます。波状の衣文は円空がよく彫るが、これは法隆寺の金堂の釈迦三尊脇侍のものに似ている。太い眉である。やはり目玉には黒が、口には朱が施されている。
 毘沙門天は四天王の中では多聞天と呼ばれている。だから武神である。一方で財宝神として信仰を集め、七福神の一つである。日本ではエビス神の本地仏でもある。江戸時代には勝負事に御利益があるという信仰が広まったという。落語で聴いたのだが、毘沙門さんと弁財天は夫婦だそうだ。そしてお寺の奥さんを大黒と呼ぶ。毘沙門さんのお使いはムカデ。鞍馬寺や東寺の毘沙門さんが有名。上杉謙信は毘沙門天の生まれ変わりを名乗った。
 円空が毘沙門天と不動明王を同じ場所に残す場合、中尊として観音菩薩を彫る場合がある。この笠松慈眼寺にもあったのかもしれない。

 背銘である。不動明王と似ているところと異なるところがある。
 ウ(最勝の) ウ(最勝の) ウ(最勝の) サ(観音菩薩) シリー(吉祥) カ(地蔵菩薩)
イ」(文首記号) バン(金剛界大日如来) ウン(何閦如来) タラーク(宝生如来) キリーク(阿弥陀如来) アク(不空成就如来) 金剛界五仏種子 
 カーンマーン(不動明王) ベイシラマンダヤ(毘沙門天)
①文首文字がイ(「ウ」ではなく)であること。
②真ん中は金剛界五仏種子であること。
③ウ(最勝の)が右に3つも連なっていること。
④不動、毘沙門、観音、吉祥、地蔵の種子は共通して入っている。
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