円空さんを訪ねる旅(73)
尾張某寺の十一面観音
(72cm)
名古屋に十一面観音は三体しかないのだそうだ。これから紹介する十一面観音はその数少ない内の一体である。現在名古屋市内にはなく尾張地方の某寺におられる。この十一面観音は三十年程前に発見されたらしい。
磐座の上に踏み分け蓮座という台座の形式で、その上に足をやや広げて立っておられる。
大変美しい微笑仏であり、お姿である。丁寧な彫りが印象的で、体全体のバランスも素晴らしい。木目が美しい。やや虫食い被害が出ていて心配な像である。延宝頃円空充実期の作だろうということだった。
(1)頂上仏と頭上仏
頂上面は線だけで目鼻口を彫りだし、頭を黒く塗っている。頂上仏は如来面だと思うのだが、この像は正面にもおそらく阿弥陀如来と追われる如来像があり二体の如来像というのは、円空独自のものなのか他に類例があるのか。左右両面に3体ずつ菩薩面が彫られている。右側に比べて左側はやや厳しい怒りの表情のようにも見える。
頭の後ろには何も彫られていない。だからこの十一面観音は六面である。
(2)全身を見る
円空の十一面観音はどういうわけかお腹が出ている。この像も斜めから見るとお腹が出っ張っている。しかし衣や手で隠れると真横からは、そのようなお腹が出ているように見えない。
ご覧のように背面はほぼ真っ直ぐでよくこんな薄い木材を使って、正面からは立体的に表現できると感心する。頭上仏を頭の後ろに彫ろうにも材がない
(3)印相、足そして背銘
印相であるが、講師の小島梯次先生は「左手に水瓶を持ち、右手には数珠を持っているように彫っているのではないか」というご意見であった。左手は親指と中指を丸く繋げている。左手は虫食いが進行していてよく分からないが親指の先に何かくっついているように見える。
足は爪まで丁寧に彫っている。虫食いの穴がいくつもある。
背面に文字や種字らしきものは見られなかった。画像を色々触ってみたが背中に図形模様のような黒いシミか汚れのようなものが見えるだけであった。
(4)底部
何も書いてない。四角い材で彫っているのだなということがよく分かる。のこぎりではなくて、鑿で平たくしたのかなと思う。でも鑿にしては広すぎないだろうか。手斧かもしれないが、こういう面を手斧がけするかなと思った。よく分からないが、この材は建築古材である可能性が高い。背中にも底部にもたくさんかなり大きな穴がいくつも空いている。釘穴かなと思ったが、円空の時代鉄釘使っただろうか、これも分からない。周囲の状態を見ると、相当な虫食いであるから、やっぱり虫食い穴だろうか。
(5)凛々しいお顔
写真は光のあたり具合でいかようにも変化する。最後の一枚で撮ったら一番気にいりの写真が撮れた。