円空さんを 訪ねる旅119 一宮市博物館 (愛知県一宮市大和町妙興寺239) 最大の大黒天と三大美像の観音 |
一宮市博物館へは2回目。最初は2010年に開催された「円空展」。その時のことは、円空さんを訪ねる旅30「一宮博物館円空展」にある。もう9年ほど前に行かせてもらったときは、庄中観音堂や岡崎市経津主神社の不動明王や毘沙門天など72体の円空さんにお会いした。その他文書類が6点あったようで、全78点の出品であった。
この時に私の心を捉えた円空仏二体と今回会うことが出来た。写真撮影の許可も出ていて楽しい時間を過ごすことができた。2019年2月2日のことである。
(1)円空最大の大黒天と最少の大黒天
(個人蔵・113cm)
円空は大きい大黒天像(荒子観音寺・円空美術館)もあるが、8.5cmという最少の大黒像(北名古屋市愛行院)もある。今回その二体が集まった。この博物館の学芸員をしておられる方が愛行院の息子さんで、わざわざ見せてくださった。(円空さんを訪ねる旅93北名古屋市愛行院)
この大きな大黒天訪問記が「円空研究」にあって、個人蔵でなかなか苦労をなさったようだ。大きすぎて動かすこともできず、現在は委託されてこの博物館で見せていただいているのであろうが、陳列ケースに収めるのもなかなかのことだろう。
福神であるから福々しいのは当然であるが、満面の笑みである。眉の線もくっきりしていて目の線と平行に流れている。目は二重線で描かれている。初期像に円空は目を二重線で描くことがある。この大黒天は45歳頃の作であろうということであった。45歳頃というのは延宝4年(1676)で、名古屋市内にある竜泉寺や荒子観音寺で足跡が見られる時代である。
左手の小槌は打出の小槌には見えず、蓮の蕾でも持っているようだ。左手は大きな福袋を持っている。
大黒天は七福神の1つでもともとはインドの憤怒像であったものが、日本では神仏習合で大国主命と同一視され、皆から愛され頼りにされる農業神になった。えびすさん(漁業神)と一対で食料豊穣の神と崇められる。背銘はないとのことであった。
この像の向かって左側面に大きな割れがある。 それも気になったのであるが、この模様のような彫りが気になった。右側面にも同じように模様がある。鱗模様のようにも見えるが、規則的に同じ形を並べているわけではない。 円空は衣装を飾り立てるような模様を彫ることは珍しい部類に入る。 鉈薬師の十二神将像にも似たような模様が見られる。十二神将(辰像)の模様は、巴模様のようにも見える。勾玉のようにも見える。雲のように見える。辰が雲を巻き起こしているダイナミックな表現なのだろうと思われる。 これは余計に分からない。なぜ大黒天の衣服に模様を彫る必要があったのだろう。左側の模様は人の頭が集まっているようでもっと異様である。「円空・木喰展」(微笑みに込められた祈り)図録所収21 |
(2)円空三大美像の1つ観音像
(94.5cm・愛知県稲沢市板葺町阿弥陀堂)
この像は大黒天同様、前回に行ったときにも、何回かの「円空展」「円空・木喰展」にも出品されてきた有名な像である。
円空展で見る円空さんは、たくさんの中にあって一体一体が霞む。よほどこれが見たいという意識で見に行かないとすぐに忘れてしまう。今回拝観して思いだしたのは2010年前回一宮博物館の「円空展」での印象が強く喚起された。会場入ってすぐ正面真っ先にこの像があった。「きれいだな」と見惚れてしまった。そのすぐ後、右折すると真正面に上記の大黒像があった。これは大きさに圧倒された。今回一宮美術館を再訪して、印象深い二体に会えてよかった。
火焔状の頭部鼻筋通った美形の観音像である。顔の大きさと肩幅、像全体の大きさとのバランスがよい。顔の造作も丁寧で美しく表情が穏やかである。目が笑っているのがとりわけ際立つ。口周りの微笑も上品である。衣に隠された手で持たれた蓮の蕾も持ち物として誠に似合っている。衣左右の鱗状の襞もアクセントとして効果的である。磐座の上の蓮座も足元も丁寧で、文句なく三大美像といわれる像である。
ちなみに円空作の仏像で三つ美しいと言われている像というのは次のものだそうだ。
①高賀神社虚空蔵菩薩像
②桂峯寺十一面観音
③板葺町阿弥陀堂観音菩薩像
2001年発行の「円空研究20」に円空学会会員が選んだ円空仏30尊」という特集がある。これを見ると①高賀神社虚空蔵菩薩は3位、②の桂峯寺十一面観音は12位に入っている。また桂峯寺三尊として30位に入っており人気が高い。しかしながら今紹介している板葺町阿弥陀堂の観音菩薩は30尊に入っていない。このランキング上位に入っているのは、菩薩もあるが、それより童子であったり、神将であったり、明王が多い。護法神と呼ばれている天部。仏の世界では下位に属する仏像が好ましい仏として認められていること自体、円空らしいと言える。
一位と二位が他を圧倒している。第1位は千光寺の両面宿儺。第2位は僅差で武儀郡上之保村不動堂の尼僧像(盗難にあった)である。円空には美しさを第一義的なものとして求めていないのだろうか。