円空さんを 訪ねる旅 (123) 長福寺 (尾張一宮市丹陽町重吉) 新発見観音菩薩 狛犬 |
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長福寺は円空仏を公開されていませんので、ご留意下さい。 |
(1)新発見の円空仏があった!
まさか、まさか新発見の円空さんに会えるとは・・・思いもよらぬハプニング!
どなたかが書いておられたか話しておられたか「円空が各家に彫り残していった小さい仏の発見はあったとしても、もう大きな円空仏が発見されることはないのではないか」と。私もそう思っていました。
2019年5月22日(水)午後2時過ぎガンダーラの会主催、尾張一宮市長福寺(曹洞宗)円空講座現地学習会でのこと。ご住職が箱にしまわれ、紙にくるまれた「狛犬」2体をお出しになり、話し始められました。
「この寺はもともと竹林にあり、檀家も50軒ほどのあばら寺で、床下からタケノコが生えてくるような寺でした。そのため住職がたえず変わるというような寺でした。この狛犬は総代さんが天井裏から見つけ、もって降りて来られたとのことで、先代住職もその由来は分からないと言っていた」とのことでした。
つづいて「実は」と言ってもう一体仏像を出してこられました。「ニセモノかもしれせんが…」と何度も言いながらお厨子の中から出してこられた像は、遠目からは、真っ黒で光背を背負っておられる像でした。我々の中からは「光背があるのは円空さんではないなあ」という声もあり「ニセモノだろう」という空気が広がっていました。
「この像は近くのお堂(善光寺堂)にあった像で、昨年の秋に来られた」とのことです。長福寺から50mほどの場所にあり、「円空さんかも知れない」という噂はあったそうです。長福寺の末寺だそうで、総代さんが、「今までお祀りしてきたが、世話するのが大変なので長福寺で」ということで移管されたというお話でした。
「今日、円空さんに詳しい方が来られるというのでその真贋が明らかになると言うので楽しみにしていた」ともおっしゃいました。
像を手渡された小島梯次円空学会理事長とご住職の話が小声で聞こえてきます。「そんな、すぐにぱっと見ただけで分かるのですか」という声が聞こえました。てっきり「ニセモノです」とおっしゃったのだと思いました。ところが小島先生から出てきたのは「ホンモノです」という言葉。
私は新発見の円空仏と出会うのは2回目です。
これはしっかり見なくてはならないし、大きさも測らなければならないし、写真も撮らなければなりません。急に忙しくなり始めました。小島先生は「ビックリした」と言いながら、「狛犬」の話はずっと後回しになりました。
(2)観音菩薩像
この像の大きさです。 ■像高…36.7Cm ■幅……16.8Cm ■奥行き…9.5Cm 自然光を障子越しで受けて撮った写真が下のものです。 実はこの日、いつも持っていくカメラを持たずに、小さくて軽いものを持って出かけました。ライトも何とかなるだろうと思って持っていませんでした。 |
左手を上にした禅定印の手の上に蓮の蕾を持ち、座す観音菩薩像です。頭に化仏の阿弥陀如来が彫られています。 衣は左右等間隔に襞があり、手から膝に向かって左右に分かれ、前は左斜めに向かって長く座を覆い隠すように流れています。右側も衣の続きのようですが、下から磐座が顔を出しています。 前面にはやや最近擦れたような傷跡が鼻などに。厨子が狭かったのか。 |
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(3)観音菩薩背銘
背面は真っ黒で字が見えなかったが赤外線カメラが、力を発揮した。 すべて種字が書かれているようである。 頭部には頭上から文首文字の「イ」。続いて首の辺りに観音菩薩の種字「サ」が書かれている。 次からは金剛界五仏種字である。背中の真ん中を不空成就如来「アーク」、大日如来「バン」、阿弥陀如来「キリーク」と続き左右に宝生如来「タラーク」、阿閦如来「ウーン」である。 その左右に浮いたように書かれているのは最勝を表す「ウ」で、左に3つ、右に二つある。金剛界五仏の周囲に書かれている。 磐座上部右側に吉祥天「シリー」がある。 一番下左に不動「カーンマーン」は間違いないようだが、右には毘沙門天「ベイシラマンダヤ」があるように思うがはっきりしない。 さてこういう種字の書き方からこの像は、少なくとも延宝7年までの像であるようだ。延宝3,4年頃作と言われている荒子観音寺千面菩薩背面の種字はこの観音菩薩と似ている。 ぽっちゃりしたお顔、細い目。延宝3,4年~7年頃に造られたのではなかろうか。 |
この寺のある前の道は、井之口から江南への街道だで、津島(千体地蔵)から江南(音楽寺)の途中だそうだ。円空が尾張各地を歩き造像していた時期に立ち寄ったのではなかろうか。
(3)尾張唯一の狛犬一対
2019年4月3日に小島先生「円空の狛犬」という円空講座があった。
そこで、円空の狛犬は25体あると教えてもらった。「阿」と「吽」で一対であるからおおよそ13対あることになる。この分布が偏っていて、岐阜県に23体あり、愛知県には2体しかないない。その2体がこの尾張一宮市長福寺の狛犬である。
岐阜県の狛犬も美並町の熊野神社に7体、関市洞戸高賀神社に9体であるからえらく偏っている。
狛犬は神社にあるというのが常識であろう。円空の狛犬もこの長福寺にあるのが唯一寺にある例外で、その点でも珍しい狛犬なのである。高賀神社の狛犬の中の一対が有名で、1m近くあり大きいものである。
そもそもであるが、「阿行」は口を開け角はない。一方「吽行」は口を閉じ一本角である。角のあるのを「狛犬」と言い、角の内のが「獅子」だそうだ。いずれも想像上の神獣であり、「獅子」だからライオンではないそうだ。
写真を撮ってきたのだが、最後に整理したときに、背面の種字の写真を捨ててしまった。 残念ながらお見せできないが、金剛界三種真言が書かれていて、頭部最初の文字は「ウン」であった。 と言うことは、この像は郡上市美並町などで白山神託を受け「是有廟 即世尊 延宝七年六月十五日」と書いて以後の作になる。 つまり先程の新発見の観音菩薩とは造像された時期が違うのである。 この像、どちらが阿でどちらが吽なのか分からない。三角形の角材のようで、ある。 |
ごらんのように、愛嬌のある顔をしている。体の模様もなかなかオシャレ。左側の狛犬はベルトをして立ち上がっているように見える。右側はもっと横から見れば四つ足に見えるかも知れない。左は目がどこなのか分かりにくい。